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 レズビアンのタレント・牧村朝子さん
私を生きる〈下〉境界消える未来夢見て

社会 | 神奈川新聞 | 2015年1月7日(水) 12:22

昨年、友人が開いてくれた結婚祝いのパーティーで妻と並んでほほ笑む牧村さん(右)=本人提供
昨年、友人が開いてくれた結婚祝いのパーティーで妻と並んでほほ笑む牧村さん(右)=本人提供

 「男より女の方が好きなの?」「俺がいやらしい目線で見てもいいの?」

 冷やかす調子で男性タレントがツッコミを入れる。牧村朝子さん(27)はいたずらっぽい笑みで切り返した。

 「いやらしい目で見てください。その目線には応えないけどね」。大和市出身のタレント。2012年に番組でレズビアンだと公表し、以来、性について話したり、書いたりすることを仕事にしている。同性婚をしたフランス人の妻とパリで暮らし、年に2カ月ほど帰国してはバラエティー番組に出演する。

 「女性が好きってことは、男になりたいの?」。質問され、やはり笑顔で答えた。「それは性同一性障害のこと。私は女性として女性が好き。まったく別物ですよ」

 柔らかい物腰にかえって、自然体を生きる信念とそこにたどり着くまでの曲折がにじむ。

 「私は活動家ではないから法律や教育を変えることはできない。私の役割は忙しい大人たちに楽しく伝えること。大人って毎日いろいろなことがある。水道代を払わなくちゃいけなかったり、仕事の悩みがあったり。自分のことでいっぱいいっぱい。上から啓蒙(けいもう)する姿勢では忙しい大人は耳を傾けてくれない」

 胸に刻むのは所属事務所の社長、杉本彩さんの「性のことは『わいせつ』じゃなくて『たいせつ』」という言葉。「肉体を持って生きている以上、性のことで当事者でない人はいない」

 レズビアンライフサポーターを名乗って2年余がたち、この肩書は最近使わなくなった。見えてきた、伝えたい大切なこと。

 「本当は、まずたくさんの人がいて、いろんな愛の形がある。好きな人が同性であったり、異性であったり。なのに『同性愛者』『異性愛者』という言葉によって人が分類され、その結果、カミングアウトが要求されたり、自分の性的アイデンティティーを探して当てはめたりしなければならなくなっている」

 レズビアンであることが受け入れられる社会の先にある、レズビアンというアイデンティティーを必ずしも強いられない社会。それはきっと、他者と違う自分を大事にすることができ、同時に、自分と違う他者も大事にする社会であるはずだ-。

上から目線


 活動を始めた当初はブログやツイッターに怒りをぶつけていた。「何の苦労もない性的多数者の皆さんに私が説明しなければいけない。同性愛者はこんな差別を受けていて、それを世間は知らなければいけない、と」

 自身もカミングアウト後、アイドルとしての仕事が回ってこなくなっていた。当時をこう振り返る。

 「私は上から目線の啓蒙家だった」。ツイッターに「レズビアンはキモイ」という返事がくれば、怒りのつぶやきを投げ返した。意見や立場が異なる人との議論とはほど遠い感情の応酬。やがて思い至った。「理解できない人に怒鳴り続けるのは自分がすっきりしたいだけ」

 なぜ他者との違いを認め、折り合わねばならないのか。いま、ブログに書く。

 〈わたし、同性愛者や性的少数者を気持ち悪いと思う気持ちそれ自体は仕方がないものだと思うのね。でも、それをむやみやたらと主張したり、ましてや人を殺す理由にしたりすることは、許されるべきではありません。だって、たとえば、異性愛者を気持ち悪いと思う同性愛者だっているんだもの〉

 〈だから、そういう自分の中の「誰かを気持ち悪いと思っちゃう気持ち」って、どうにかその「誰か」に直接向けないように処理しないと、人類は傷つけ合いの殺し合いになります。ただでさえ傷つけ合い殺し合ってるとこなのに、これ以上もういいわよね。だってわたし、大事な人や自分自身を、傷つけられたくないし、殺されたくないもの〉

 この国はいま、この瞬間も「人を殺している」と思う。学校の性教育は、思春期に異性に引かれることを「正常な発達」と教え、男子は男らしく、女子は女らしく成長すると伝える。

 「同性愛者や性同一性障害の子どもたちにしたら、自分は異常なのか、と思う」

 その思いは時に人を死に追いやり、自らを「正常」に偽ることそれ自体が自分を殺しているに等しい。テレビ番組では「同性愛者として困っていること」ばかり聞かれ、「困っていない」と答えれば期待外れになる。

 性的少数者は「悲劇路線か好奇の目」で見られ、メディアは「涙のカミングアウト」を演出したがる。体と心の性を一致させるために手術をした男性は「この美女、実は男性なんです」「えー、信じられない」と紹介される。「感性が幼稚だと感じる」

 では、どうやってこの息苦しさを伝えればよいのか。

興味を引く


 今、意識しているのは「見出しはゲスに、中身はまじめに」

 「レズビアンが教える女の口説き方」「レズビアンの性生活」といった興味を引きやすいテーマを切り口に話す。その中で「同性愛と性同一性障害は違う」「同性愛者には男役、女役が必ずしもあるわけではない」と伝えていく。

 聞いてくれないのが悪いのではなく、楽しく話せば聞いてくれる。「異性愛者にならなければ」「真のレズビアンにならなければ」「啓蒙家にならなければ」と背負っていた肩の荷が下り、気付いた。

 「何かを伝えるのに、異性愛者も同性愛者も関係ない」。答えはやはりここに戻ってくる。

 最近、「テレビで見ました」と街中で声を掛けられるようになった。アイドル時代からの男性ファンも「最近、奥さんとどう?」と話しかけてくる。レズビアンは自分が思っていたほど疎まれている存在ではないとも感じ始めている。

 「私は22歳になるまでフェミニズムという言葉を知らなかった。大学にも行けて、選挙権もあって、女性であることを理由にした差別を感じたことがなかったから。レズビアンも同じ。差別が消えれば、言葉は消える」

 連載を抱えるいくつものウェブサイトで決まってつづる夢がある。

 〈わたしは夢見ています。いつか愛する妻といっしょにおばあちゃんになって、幸せそうな若い女の子カップルに、「レズビアンってなあに-?」って無邪気に聞かれる日を〉

まきむら・あさこ 1987年大和市生まれ。タレント・文筆家。2012年にレズビアンであることを公表。インターネットサイトやブログなどで主に多様な性のあり方をテーマに執筆活動を続ける。13年、フランス人女性とフランスで同性結婚。パリ在住。著書に「百合のリアル」(星海社新書)。

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