【時代の正体取材班=田崎 基】衆参両院の「憲法審査会」が11月16、17、24日に開催された。改憲を具体的に視野に入れた議論が本格的に始まり、各党を代表する委員が口火を切った。そこから見えてくる憲法改正論議の焦点、各党の狙いは-。改憲問題に詳しい倉持麟太郎弁護士に内容を分析してもらうとともに、論議の本来あるべき姿について聞いた。
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衆参両院の憲法審査会から、いくつか大前提となる議論の土台が積まれた。大きく分けて3点。今後は、この共通認識に立ち議論が進められることになるだろう。
「押し付け論」克服
まず、いわゆる「押し付け憲法論」は克服しよう、という点だ。押し付け憲法論とは、現行の日本国憲法は戦後、連合国軍総司令部(GHQ)によって押し付けられたものであるから改正、あるいは自主憲法の制定が必要であるという考え方。今回の審査会では一部の委員を除き、そうした論理が無意味で、まかり通らないということを、与野党双方の各委員が確認し合っていた。
11月17日の衆院憲法審査会で公明党の北側一雄筆頭幹事が発した言葉は、特に際立っていた。
〈何よりも日本国憲法はこの70年間、国民に広く浸透し支持されてまいりました。押し付け憲法という主張自体、今や意味がないと言わざるをえません〉
「押し付け憲法論」は実にご都合主義的な理屈。当時GHQによって「押し付けられた」のは何も憲法だけではない。日本は当時占領下にあり、数多くの事柄が押し付けられた。例えばGHQの指揮によって強行された農地改革はその典型だ。だが、農地改革は日本政府にとっても都合が良かったことから、その後も見直そうとはしていない。これらも「押し付け」として70年後の現在も一貫して抗議してはどうか。
一方、憲法はこれまで、自民党幹部が再三「押し付けられた」と言い続けてきた。何より安倍晋三首相自らが、現行憲法改正の必要性を語る中で「日本が占領されていた時代に、占領軍の影響下でその原案が作成されたものであることも事実であります」と述べている。
今回の参院憲法審査会でも自民党の中川雅治幹事は、現憲法が占領下で制定された経緯に触れ「国民の自由な意思が反映されたとは言い難い」と明言していた。だが、従来から言い尽くされた手あかのついた論理を今更持ち出すことに特段の意義を見いだすことは難しい。
同じように再三援用されている無意味な理屈に「70年間一度も改正していない」がある。一部の委員から同趣旨の発言があった。
他国の改正回数と比較して日本がゼロであるというのは例がなく、おかしいというわけだが、これも説得力に乏しい。そもそも成立過程やその後の国の状況、また憲法自体の性質や立て付けが異なるものを並べて、他国の改憲回数を持ち出すというのは、あまりに意味がない。
いずれにしても、こうした表面的な改憲根拠はこれまで繰り返し主張されてきたが、改憲というハードルを越えうるだけの論拠とはなり得ず、また国民に対してその程度の訴求力しかなかった。
今後、発展的な改憲論議を期待するのであれば、より説得的で中身のある根拠を示す必要がある。
「三大原理」は堅持
第二に、「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」といういわゆる憲法の三大原理は堅持するという当然の前提が明確にされた。
これは衆院憲法審査会で自民党の中谷元筆頭幹事が冒頭で念押しし、決着をみた。
〈戦後のわが国を築いてきた日本国憲法は既に国民の生活に定着したものとなっており、特に国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という日本国憲法の基本原理がわが国の国際社会における民主国家、平和主義国家としての礎を築く上で果たしてきた役割は極めて大きく、将来も継承していかなければなりません〉
最後である第三はかなり重要で、