県内最大の1級河川である相模川で、再生の取り組みが進められている。ダムや堰(せき)の建設によって山間部からの土砂がせき止められた弊害が近年、顕在化しているためだ。
相模川・中津川水系には八つの主要ダムがある。このうち、国内初の多目的ダムとして1947年に完成した相模ダムや沼本ダム、道志ダムは長年の土砂流入で堆砂量が増し、一部浚渫(しゅんせつ)を行いながら機能を維持している。磯部頭首工付近は約8メートルの河床差ができてしまった。
土砂供給が減少した影響は広範に及んでいる。三川合流地点では粘土質の土丹層が露出し、海岸部で侵食が起きている。河原が樹林化して外来種が増え、カワラノギクなど在来種が駆逐されている。
こうした問題の原因が全て解明されたわけではないが、現場ごとの対応では限界があることも分かってきた。上流から河口まで一体的な土砂管理を計画的に実施すべき時期に来たことは間違いないだろう。
河川管理者の国土交通省と県による実行計画づくりは最終段階を迎えている。11月に示された計画の骨子案では、地域住民や学識者らから提言のあった「昭和30年代前半の相模川」を再生の目指すべきイメージに掲げた。
基本方針を「人為的行為の影響による土砂管理上の問題を解消。その際に自然の営力を極力活用」として、海岸線の継続的養浜の解消、土砂管理上バランスの取れた安定的な河道の保全を目標にした。試行してきた相模湖にたまった土砂などを運び入れる置き砂や、磯部頭首工の改築などで実現を目指すとしている。
相模川において土砂管理計画を作るのは今回が初めてになる。年明けに計画案が公表され、市民意見が募集される。酒匂川では2013年3月に同様の計画が策定済みだ。
利水・治水を優先してきた河川行政は、1997年の法改正で自然環境への配慮が追加され、大きく転換した。創設された住民との対話を重視する制度が今回、どう生かされているかも注目される。
相模川は「母なる川」として多くの恩恵を与えてきた。しかし、整備によって流況は変わり、自然が残る河川とは言えなくなった。生態系の回復には森-川-海の連続した水循環が重要である。対策の効果や、ダムなどの功罪を検証して再生の姿を幅広く議論していきたい。
【神奈川新聞】