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刻む2014<1>規制のビーチ 「自由」妨げるものは 鎌倉支局・遠藤綾乃

社会 | 神奈川新聞 | 2014年12月21日(日) 12:00

静けさを取り戻した逗子のビーチ。今夏は親子連れの姿が目立った=8月1日夕、逗子海水浴場
静けさを取り戻した逗子のビーチ。今夏は親子連れの姿が目立った=8月1日夕、逗子海水浴場

暮れゆく2014年。自然の猛威におののき、救えなかった命を悔やみ、文化のありようを自問した。駆け抜けてきた記者が立ち止まり、取材対象にもう一度真摯(しんし)に向き合った。「その先」に目を凝らすために。

皆さんは驚くかもしれないが、寒風吹きすさぶ師走の今も、逗子市では海水浴場のあり方を考える市民らの検討会が続いている。その議論はあの真夏の日々と変わらず熱く、一筋縄ではいかない。賛否はときにぶつかり、ときに辛抱強さを求められる。現在進行形の問題だ。

海水浴場をめぐる規制は、昨年8月19日に現任地へ配属されて以来、重要な取材テーマであり続けている。海は誰のものか。文化と公共は共存し得ないのか-。とりわけ行政の法令によりすべての音楽を規制することに対し、記者は当初から懐疑的な立場だった。今もそれは変わらない。

「住民以外のわれわれにも、この海を楽しむ権利がある」。昨夏、来場者からのそんな批判を直接受けつつ、平井竜一市長は音楽や砂浜での飲酒を禁止し、海の家の営業時間を大幅に短縮する「日本一厳しい」条例改正に踏み切った。市議会も圧倒的多数で改正条例を成立させた。

そして今夏、逗子海水浴場は驚くほどの静けさを取り戻した。「ようやく安心して遊びに来られる」。市民から聞かれたのは安堵(あんど)の声だ。昨夏、あれほど押し寄せ、騒ぎ、海を楽しんでいった来場者の姿はなかった。逗子の海そのものに、それほど愛着を持っていたわけではなかったのかもしれない。

治安の悪化や風紀の乱れを招き、規制強化へとつながる大きな要因となった、海の家の「クラブ化」問題。大音量の音楽が流され、若い男女が酒を飲み、水着姿で深夜まで踊る。

海岸近くに住む男性は振り返る。「夏のたび、何十回警察に通報したか分からない。それが10年近くも続いたんだ」。けんか沙汰、泥酔者の救急搬送、住宅への不法侵入、違法駐車、立ち小便…。「あんなことは、もう二度とごめんだ」

一方、規制ではなくマナー向上をうたう新条例で臨んだ隣の鎌倉市では今夏、対照的に苦情や通報が増加。「逗子から客が流れてきた」という市民の批判も受け、来夏の規制強化へと方針転換を迫られた。法令によるビーチ規制は、湘南で定着しつつある。

規制を支持する逗子市民の根底には、海の家を統制してこなかった逗子海岸営業協同組合への不信感がある。その組合は、規制を「表現の自由」の侵害とし、市に条例改正の差し止めなどを求めて提訴した。

では、表現の自由とは何だろう。

今年、同じキーワードをめぐり注目を集めた一つに、ヘイトスピーチ問題がある。人種差別的な言動を「表現の自由」とした政治活動団体の主張は今月、最高裁により退けられた。自由は文化を保障する。しかしそれは、他者の権利を侵してなお、主張できるものではないのだ。

ヘイトスピーチには、相手への明確な悪意がある。一方で海水浴場来場者の傍若無人な振る舞いは、悪意とは異なる。住民の存在がそもそも意識から欠落し、被害も目に入らない。そうした意味で市民は、ヘイトスピーチとはまた違う苦しみを長年背負わされてきた。

我慢を強いられてきた市民が公共の安全・安心が十分に回復したと納得し、規制のあり方に結論を出すまで、もう少し時間を要するかもしれない。それでも、規制が全くなくなることはないだろう。

ただ、「規制が嫌なら来るな」という議論には陥ってほしくない、と思う。文化や多様な価値観との対話のすべてを諦めることは、他者を排除しようとするヘイトスピーチとどこか重なり合う危うさをはらむ。内へと心を閉ざすことは、文化やまちの発展そのものを手放してしまう恐れもある。

だからこそ、強調したいことがある。

夏の海を愛し、訪れる皆さんにも、市民と同じぐらい、海水浴場のあるべき姿について一緒に考えてもらいたい。なぜなら来場者こそが、この問題の重要な当事者だからだ。

海を楽しむ権利は誰にもある。それぞれの望む姿を実現するため、必要なことは何か。マナーの順守、他者への想像力。それらが今、絶対的に足りていない。

これ以上市民だけが頭を悩ませるのは、あまりにも酷だ。本当の意味で「自由」を妨げているものは、行政の法令ではない。

【神奈川新聞】

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