在日米海軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(大和、綾瀬市)の騒音解消を目指し、周辺住民が国に航空機の飛行差し止めと損害賠償を求めた「厚木基地第4次爆音訴訟」の上告審判決で、最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)は8日、自衛隊機の一部飛行差し止めを命じた二審東京高裁判決を破棄、自衛隊機運航に違法性はないとして住民側の請求を棄却した。2016年末までの「将来分」の損害賠償を認めた部分も同様に破棄し、住民側の逆転敗訴が確定した。
騒音の主な発生源の米軍機について、最高裁はすでに審理対象から外す決定をしており、判決でも差し止め請求を退けた。自衛隊機に関する判断を最高裁が覆したことで、軍用機の差し止めは第4次訴訟でもかなわず、住民の被害救済は第1~3次訴訟と同様、過去の騒音被害への賠償に限定される結果になった。
自衛隊機の一部飛行差し止めと将来分の損害賠償の破棄は、いずれも裁判官5人全員一致の結論。
第4次訴訟では、従来の民事訴訟のほか、公権力行使の適否を問う行政訴訟でも飛行差し止めを求めた。判決は、自衛隊機の飛行差し止めを行政訴訟で求めること自体は容認。住民の被害について「特に睡眠妨害は相当深刻で、軽視できない」とした。
その一方で、自衛隊機の運航には高度の公共性・公益性があると認定。さらに夜間の飛行自主規制や住宅防音工事を実施している点を踏まえ、「自衛隊機の運航が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くとは言えず、裁量権の逸脱には当たらない」と判断した。
将来分の損害賠償については「具体的な請求権や金額をあらかじめ明確に認定できない」と指摘。これまでの最高裁判例に従って将来分の請求を認めず、賠償額は二審判決の約94億円から過去の被害分のみの約82億円に減額された。
15年7月の高裁判決は、自衛隊機に限定して運航の違法性を一部認定。16年末までと期間を区切った上で、深夜早朝における自衛隊機の飛行差し止めを一審横浜地裁に続いて命じた。さらに二審結審時から16年末まで将来生じる被害への賠償も認め、住民側にとって画期的な判断を示した。
厚木基地第4次爆音訴訟 1976年から続く訴訟の第4次で、2007年12月に提訴。原告数は基地周辺の約7千人。民事訴訟と行政訴訟で同時提訴した点が特徴。行政訴訟は自衛隊機で功を奏し一審、二審とも夜間早朝の飛行差し止めを命じた一方、米軍機は「国の支配が及ばない」(民訴)「訴訟の対象となる行政処分が存在しない」(行訴)として退けた。また、二審は民事の損害賠償で16年末までの「将来分」を含む計94億円の支払いを国に命じた。
解 説
高度の公共性認定 「救済」振り出しに
第4次訴訟の最高裁判決は、二審判決の画期的とされた部分をことごとく覆すものだった。「また振り出しに戻ってしまった」と原告側弁護団。開きかけた司法救済の門戸は再び固く閉ざされる結果となった。
判決は、住民が強いられている被害の深刻さを「軽視しがたい」と認めた。にもかかわらず、自衛隊機運航には高度の公共性・公益性があると認定。国が施す騒音対策も含めて「諸般の事情を総合考慮」し、国の裁量に軍配を上げた。
これは国防という大義の前では、住民の被害が甚大であっても目をつぶらざるを得ないと宣言したに等しい。人権救済の砦(とりで)たる役割に照らすと、この判断は大きな波紋を広げそうだ。
また今回の判決は、行政訴訟で自衛隊機差し止めを求めることを是認したが、こうした公共性をはね返すことは容易ではない。今後も続くであろう訴訟において、適法とされた行政訴訟が一方で限りなく実現性の低いものであれば、矛盾した判断のようにも映る。
将来分の賠償についても却下されたことで、住民の救済は従来通り、過去の騒音被害を慰謝する形にとどめられた。こうした形を是とせず、一歩を踏み出した下級審には住民の痛みにいくらかでも寄り添う姿勢が感じられた。司法として何が正しいか、4次訴訟の残した意義は色あせることはない。