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ビキニ被ばく60年
第3部:伝え継ぐ(4)福島、ビキニ…「現地の苦悩に寄り添う」

社会 | 神奈川新聞 | 2014年11月29日(土) 12:15

草の根の活動を続ける「ビキニふくしまプロジェクト」の名取さん=藤沢市の自宅
草の根の活動を続ける「ビキニふくしまプロジェクト」の名取さん=藤沢市の自宅

全国各地を回り、核の恐ろしさや悲惨さなどを伝える「ビキニふくしまプロジェクト」の発起人の1人、名取弘文(69)の活動の原点は、教員時代にさかのぼる。

定年退職まで地元藤沢市内の小学校で主に家庭科教師を務めた。1985年から自らが行う公開授業を「おもしろ学校」と名付け、年数回のペースで続けた。社会的、国際的なテーマを取り上げ、インド・パキスタンの核問題やパレスチナの紛争、国内は水俣病など多岐にわたった。

例えば、水俣病問題については、なぜ被害に遭った地域が無農薬で夏ミカンを栽培しているかを現地から招いたゲストに説明してもらい、最後に児童と一緒にマーマレードを作った。「水俣の方々が、自分たちの苦しみを再生産したくないという思いを知ってほしかった。家庭科でもこうした授業はできる」と振り返る。

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米国の原水爆実験によるビキニ事件を題材に授業をしたのは10年前。マーシャル諸島やロンゲラップ環礁などで被ばくの実態を取材し続けるフォトジャーナリストの島田興生(75)=葉山町=を招き、放射能被害に遭った住民らを写真で紹介してもらった。児童からは「(米医師団が被ばくした住民らに対し)薬も与えないで、『海水を浴びろ』とはひどい」「ブラボー実験の一発だけでなく、その後も繰り返していたのか」など、さまざまな声が上がったという。

名取は「核は本当に人類に役立つものなのか。社会科や現代史、物理などいろんな分野を関連付けて考えさせると、子どもの中で総合的な認識力が養われる」と話す。

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ビキニふくしまプロジェクトは島田が「福島を風化させてはならない」と呼び掛け、2012年1月に約20人のメンバーで発足。「自分にも何かできることはある」と賛同した名取は、会場の段取りや広報活動など側面からサポートし、これまで県内をはじめ北海道や長野、福島県など全国各地で30回以上の講演を実施した。

汚染された故郷に帰れないロンゲラップ島民らを撮りためた写真のスライドショーや朗読劇などで、除染作業の難しさや低線量被ばくの恐れなど、福島とビキニが共通して抱える問題について投げ掛ける。場所は女性服ギャラリーや寺院、仮設住宅など規模の大小を問わず、行ってきた。

原発事故から3年たった福島でも、避難指示区域だった地域などへの帰宅問題が出ている。60年たつ今も帰島できていないロンゲラップ島民を念頭に、名取は「安全面から50年、100年先を見据えて考えるべきではないか」と指摘する。

プロジェクトメンバーは約130人に増え、共感の輪は広がっている。名取は「日本は唯一の被爆国というが、ロンゲラップの人々も同じように被ばくした。第五福竜丸は世界的な問題提起をしたが、単に被ばくしたというだけでなく、冷戦など事件が起きた背景を考えないと」と訴え、国の論理に翻弄(ほんろう)される民衆に寄り添う。

島田も「『核反対』と声高に叫ぶだけでは共感は得られない。ビキニや福島の人々と日常的に関わりを持つような関係づくりを粘り強く続けていきたい」と力を込めた。

=敬称略

(ビキニ事件取材班)

 
 

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