1. ホーム
  2. ニュース
  3. 社会
  4. 時代の正体〈42〉米軍基地を問う

「ノー」は闘いの始まり
時代の正体〈42〉米軍基地を問う

社会 | 神奈川新聞 | 2014年11月17日(月) 10:30

全国各地で講演活動を続ける知念さん
全国各地で講演活動を続ける知念さん

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題が最大の争点となった沖縄県知事選は移設反対を掲げる翁長雄志・前那覇市長が当選を果たした。新たな基地建設にあらためて示された沖縄県民の「ノー」の意思。解散総選挙のニュースで浮き足立つかに映る本土に向け、あるいは自らに言い聞かせるように、沖縄の若者の一人は言うのだった。「基地反対派知事の勝利はゴールではなく、新たな闘いの始まりなんだ」

午後8時、開票と同時にもたらされた当選確実の報。示された「基地移設反対」の明確な民意。望んでいた結果にもかかわらず、知念優幸さん(23)は淡々と受け止めた。

「重要な選挙であることは間違いない。でも大切なのはこれから。基地反対の声をいかに支えられるかが問われている」

苦い思いとともに振り返るのは、前回2010年の沖縄県知事選。再選を果たした仲井真弘多知事はこの時、辺野古への基地移設に反対の考えを示していた。

民主党から自民党への政権交代を経て、仲井真知事は昨年末、移設に向けた埋め立て工事の申請の受け入れを表明した。

「国に屈した。責任は知事だけにあるわけじゃない。基地を造らせないという公約を僕ら県民も支えることはできなかった。結局、沖縄に与えられた選択肢は本土の恣意(しい)的な操作の中でしか存在していない」

その本土では今、解散総選挙についてのニュースが駆け巡る。総選挙で現政権が勝てば基地の移設は信任されたものとして、知事選で示された「ノー」も瞬く間にかき消されてしまうのではないか。そんな思惑と結果が容易に想像できるだけに、浮かれてなどいられなかった。

■現実

今年2月から大学を休学して全国各地を巡って講演している。

現実を知ってほしかった。国土面積のわずか0・6%の沖縄県に在日米軍基地の74%が集中するという偏りをどれだけの人が認識しているだろう。議論の出発点になる知識がなければ、基地問題を本土を含めた問題として捉えることも難しい。

「感情的になっても何も伝わらない」と、淡々と語ることを心掛けてきた。琉球王国から琉球処分、太平洋戦争での地上戦、米国による占領統治、そして本土復帰といま-。やがて、思わぬ「壁」の存在に気付く。

「沖縄の過去と現実を語ることで聞いていた人が本土の沖縄に対する加害性を認識し、拒絶反応を起こしてしまう。気分を害する人が少なくなかった」

加害の側面を強調しているわけではない。「でも、時代を遡(さかのぼ)って事実を述べていくとどうしてもそれが浮かび上がってしまう」

他国の侵略から守るために沖縄には米軍基地が必要だという人がいる。「それは、日本のためなら、沖縄が犠牲になっても仕方ないという発想にほかならない」。沖縄の人間ならそれを差別と感じる。だが、その2文字を口にすると本土の人に驚かれる。同世代の学生は聞いてきた。

「沖縄の人は日本人が嫌いですか」

沖縄のことを知ってもらいたいという単純な思いを理解してもらう難しさを実感する。「日本の一部というより、遠く離れた別国のような感じ。溝が確実に存在する。沖縄のことを伝えるのは一種の外交のようなものと考えるようになって初めて、理解してもらう難しさが腑(ふ)に落ちた」

■希望

知ろうとしないのか、あるいは単に知らないだけなのか。後者であってほしいと希望を失わないのは、かつての自分を重ね合わせるからだ。

高校1年の夏、集会に行ってみないかと先生に勧められた。沖縄戦での集団自決は旧日本軍が強制したものだったという記述を削除させた教科書検定意見の撤回を求める県民大会だった。会場を埋めた11万の人の波に驚いた。

「教科書の一文にこれだけの人が集まるなんて。自分は何で興味を持たなかったのだろう」

では今伝えたい、伝えるべき現実とは何か。

10月、横浜市内での講演会。スクリーンに1枚の写真が映し出されていた。

普天間飛行場の移設先である辺野古の米軍キャンプ・シュワブ前、抗議活動を続ける反対派住民と対峙(たいじ)するように沖縄県警の警察官がゲート前を固め、その前には民間警備員が張り付いていた。

「民間警備員が警察官を守り、警察官は防衛省を守る。では、その防衛省、つまり日本政府は一体何を守っているのでしょう」

その問い掛けに会場は静まりかえった。

基地問題を通じて浮かび上がるのは、この国の民主主義の現在位置ではないのか。そう痛感する出来事が沖縄では繰り返される。

例えば米軍新型輸送機MV22オスプレイの普天間飛行場配備。県民集会に10万人が集い、全41市町村から首長らが参加して拒否の姿勢を示した。仲井真知事は防衛相に直訴もした。

結果はしかし、覆らなかった。「あらゆる行政的、民主的手段を尽くし、民意を伝えたにもかかわらず、政府は聞くことすらなかった。民主主義を一番尊重しないのは日本政府だと痛感した」

変わらぬ現実に本土に伝わらない無力感。「日本を1周し、沖縄のことを伝える旅が何を生み出すか分からない。何の意味もないかもしれない」。でも、「続けていくしかない」。

甲子園を目指して進んだ沖縄水産高校野球部、そこで知った失望を忘れない。全国屈指といっていい厳しい練習の先に、いつかの雄飛を夢見た。

「でもOBたちは皆、県内の中小零細企業で働いていた。てっきり、本土の大きな会社で社長とかになっていると思ったのに」

基地問題につながる格差もまた沖縄の現実。旅は終えられそうにない。

◆普天間飛行場移設問題 1995年9月の米兵少女暴行事件を契機に日米地位協定の見直しや基地の整理縮小を求める声が沖縄県民の間で高まった。96年、日米両政府は普天間飛行場(宜野湾市)の返還合意を発表。日本政府は99年に名護市辺野古への飛行場移設を閣議決定した。2009年、民主党・鳩山政権下で一時、県外移設案が検討されるが、頓挫。13年4月に日米両政府が発表した返還計画では「2022年度またはその後」に返還するとされた。同12月、辺野古移設に反対だった仲井真弘多知事が一転、普天間の5年以内の運用停止を条件に政府が申請した辺野古沿岸部の埋め立てを承認した。

ちねん・まさゆき 那覇市出身。沖縄キリスト教学院大学3年(休学中)。2010年8月、同大の学生らと「TEAM琉球」を立ち上げ、沖縄戦跡巡りや修学旅行生への平和ガイドを行う。今年2月から全国の大学や高校、市民グループの集会を回り、120回を超える講演活動をこなす。

【神奈川新聞】


沖縄県の米軍普天間飛行場の移設先、名護市辺野古沿岸部=8月
沖縄県の米軍普天間飛行場の移設先、名護市辺野古沿岸部=8月

こちらもおすすめ

神奈川県知事選に関するその他のニュース

社会に関するその他のニュース

PR
PR
PR

[[ item.field_textarea_subtitle ]][[item.title]]

ニュースに関するランキング

    アクセスランキング