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開設者・八田 真行さん「報道の意識向上が必須」
時代の正体〈41〉内部告発サイト来月始動

社会 | 神奈川新聞 | 2014年11月14日(金) 10:00

八田真行さん
八田真行さん

内部告発者が身元を割られることなくジャーナリストに情報を提供できる告発サイトが12月に始動する。開設する駿河台大専任講師の八田真行さん(35)は言う。「こうしたサイトが日本にも存在しているという事実に意味がある」。折しも、違反者に重罰を科す特定秘密保護法の施行が12月10日に迫る。告発サイトの仕組みとその可能性、果たす役割を聞いた。

「ちょっとやってみましょうか」。喫茶店の片隅でノートパソコンを開くや実演付きの解説が始まった。「日本版ウィキリークス」と評されたこともある仕組みは思いの外、単純だった。

内部告発者は「Tor(トーア)」と呼ばれる匿名化ソフトを使ってインターネットへアクセスする。次に告発文書をサイトへ送るのだが、ここで活用されるのが「グローバリークス」というソフト。ジャーナリストや報道機関など、あらかじめ登録したレシーバー(受信者)の下に送信される。

煩雑な作業は不要。5分もたたず、ダミーの告発情報が送受信された。「使っているのはいずれも既存のソフト。大掛かりな開発は不要だった。費用は受け皿となるサーバーの年間使用料1万円だけだ。先日、講演をして3万円いただいたので、3年間は運用できる」と笑う。

では、匿名化の鍵はどこにあるのか。

まずトーアというソフト。全世界に約1万存在するとされるサーバーのうち任意の三つを経由してネットにアクセスする。最初に接続されるサーバーはリーク元を知り得るが、次のサーバーは一つ前のサーバーしか認識できない。情報はサーバーを移転していくたびに痕跡が消されていくため、情報の受け手から出どころまで流れをさかのぼることができない。

この匿名化ソフトはパソコン遠隔操作事件でも使われ、世に知られることになった。

もう一つは、受け手へ情報を送るグローバリークス。登録されている複数のレシーバーからリーク元が相手を選択でき、リーク元が身元を伏せたままメッセージをやりとりできる。

「情報を受け取った側からリーク情報が漏れ広がる可能性はあるが、それでもリーク元の存在は突き止められない。関わったすべての人が仮に裏切ったとしてもリーク元にはたどり着けないようになっている」

□社会との懸け橋

技術に詳しい研究者は社会への関心が低く、一方で社会学者や法学者といった文系の研究者は技術への知識が乏しい-。八田さんは「情報技術(IT)が直接的に社会の役に立つということはあまりなかった」との問題意識から、ITと社会を結びつける必要があると説く。

ITが社会に与える影響の研究が八田さんの専門分野。具体的には各国政府や自治体、公共機関、企業が大量に保有しているデータをITを使って分析し、役立てるオープンデータの取り扱いだ。こうしたデータを報道に活用することをデータジャーナリズムといい、欧米を中心に数年前から注目を集め始め、八田さんが特に詳しい分野でもある。

研究に取り組む中で新聞記者やフリージャーナリストらと話すうち、技術を社会的に意義のあることに役立てるための懸け橋に自分がなれるのではないかと思い至った。

まだインターネットが普及する前、父に買ってもらった1台数十万円、NECの「PC-9801VX21」を小学校低学年で手にした。高校時代に米国へ留学したのは、当時流行した米国ドラマ「ビバリーヒルズ白書」に影響されたから。「要はミーハーなんですよ」。プログラミング技術は米国留学中にゲームをやりたくて始めたのがきっかけだ。

帰国後、東京大へ進み、そこで暗号化技術や発信者を匿名化する仕組みに関心を持った。「ただ、こうした無数の技術は実用レベルに達していても、社会的に意味のある使い道がないというケースが多かった」

そんな時、アフガニスタンやイラクでの戦争に関する米国の機密情報といった内部告発を引き受け、マスメディアに提供するウェブサイト、ウィキリークスを知った。

八田さんが日本に紹介したのは2009年。「ウィキリークスでは匿名化技術が社会的意味を持って使われていた。技術的には既存のソフトを組み合わせることで実現できた。端的に言ってしまえば、『できるから、やってみた』ということです」

□何が起きるのか

実は「日本版ウィキリークス」との呼称は本意ではない。

〈俺はウィキリークスの日本版作る気は(少なくとも今のところは)全然無いんだけどな…〉

〈リーク元からリーク先にデータを引き渡すだけで、基本的にわしは素通りだからのう(というかそれが匿名性維持のキモ)。自分でリークを分析したり記事書いたりしていたウィキリークスとはそこが違う〉

ツイッターでそうつぶやいた。餅屋は餅屋、との思いがある。

告発サイトによって隠された犯罪や不正、防衛機密情報といった秘密が続々と寄せられ、社会の変革が引き起こされるといった「幻想」を抱きがちだが、とくぎを刺す。

「正直、そんな話にはならない。いわゆるガセネタも多いだろう。現実的に期待できるのは、地方自治体の不祥事や企業の不正といった比較的細かい事柄」

匿名化が犯罪を助長するといった一面的な見方も違うと思う。「たとえば中国や『アラブの春』のエジプトでは検閲を避けるために使われ、世界的には当たり前にある技術」

そしてこう指摘する。

「絶対に誰にも知られないで告発できる仕組みが存在している、という事実がさまざまな効果を生む」

一例として、施行まで1カ月を切った特定秘密保護法の恣意(しい)的な運用を抑止する効果を挙げる。「どこかで世に出ると分かっていれば、不正は働かせられなくなるものだ」

八田さんはその上で問い掛けた。

「虚偽情報が送られた場合、匿名化されているためリーク元に真偽を確かめたり責任を追及したりすることができない。だが、匿名電話で内部告発を受けるのと同様、もともと情報が持っている性質であり、報道するなら受け取った側が精査する責任がある。受け手であるジャーナリスト側の意識を高めることが欠かせない」

リーク情報の真偽を確認する手法や意識はこれまで以上に高い専門性が求められる。意図的に虚偽情報を漏えいするケースもあるかもしれない。報じる側はその責務に耐えうるだろうか。

「その問題もまた、この告発サイト以前にある問題だ」

使う側の変革を促すという、そこにはやはり変革の可能性を秘めたサイトなのだった。

はった・まさゆき 東京都練馬区出身。東京大卒、同大大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。知的財産研究所特別研究員を経て現職。著書に「日本人が知らないウィキリークス」(共著、洋泉社)など。

【神奈川新聞】


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