政府は認知症対策の国家戦略を年内に策定し、来年度から着手する。世界共通の課題の解決へ、早期対応の具体化や医療と介護の連携、治療法開発まで総合的に取り組み、発信してもらいたい。
新たな施策展開は、安倍晋三首相が各国政府の担当者や当事者らが参加した国際会議で明らかにしたものだ。戦略的な施策の実施は、徘徊(はいかい)による行方不明者問題などを踏まえ自民党国会議員有志の議員連盟が政府に働きかけていた。
現行の認知症施策推進5カ年計画は2013年度にスタート、施設や病院から住み慣れた地域でのケアを重視した体制の構築を目指している。ただし、当事者の症状に応じたきめ細かな対策の必要性や地域包括ケアシステムの早期確立といった課題が浮上。計画期間中の改定に踏み切ることになった。
戦略策定に当たっては、当事者、家族の視点、思いを最大限に重視すべきである。その上で、国のトップダウンではなく、それぞれの地域の特性に軸足を置いた対策の実施が求められよう。認知症の人が地域で安心して暮らしていくためには、症状に対する偏見や誤った認識を払拭(ふっしょく)することも必要だ。
地域包括の観点からは、多様な分野の担い手の育成、支援に力を注ぐべきである。中でも重要な役割を果たすのは、かかりつけ医、そして近隣住民をはじめ、地域密着型の企業、公共機関などを対象にした認知症サポーターといえよう。
診察や治療には専門的な知識が不可欠である。改定の柱の一つは、都道府県と政令市がかかりつけ医を対象に行っている認知症研修の受講者数の目標引き上げである。身近な診療所に来所する機会が増えれば、早期発見や、専門病院への橋渡しによる重症化防止につながろう。
認知症の高齢者は予備軍も含め800万人以上とする推計を踏まえれば、認知症サポーターは依然、不足しているといえよう。コミュニティーのつながりが地域ケアの基盤と言っても過言ではない。互いに顔の見える関係があればこそ、早期段階での症状に気づいたり、行方不明を防げたりできるはずだ。
昨年12月に英ロンドンで開かれたG8認知症サミットでは25年までに治療法を開発することが同意された。医療分野でも日本の研究成果を生かし、貢献してもらいたい。
【神奈川新聞】