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特別支援校で手作り成人式 命慈しみ笑顔の輪

社会 | 神奈川新聞 | 2014年10月31日(金) 03:00

暖かな秋晴れの学びやに、晴れ着姿の新成人が集った。横浜市旭区の市立若葉台特別支援学校でこのほど、季節違いの「成人式」が行われた。重度の身体障害があり一般の式典への参加が難しい卒業生のため、毎年学校が独自に祝う門出の日。「20年間生きてきた喜びを、分かち合おう」。保護者や教諭らにも、たくさんの笑顔が広がった。

「本当にこの日を迎えられるなんて。感無量です」。母親の久保田和子さんは、あいさつで思わず言葉を詰まらせた。涙が今にもこぼれそうになる。けれどすぐ笑顔に戻り、「学校がいかに力になってくれたか。お父さん(夫)も、ありがとう」。隣では、車いすに乗った三男の暁さん(19)が大きな瞳をしばたたかせている。

25日。昨春、肢体不自由教育部門高等部を卒業した6人と保護者らが、懐かしい校舎に集まった。振り袖や背広、ドレス姿の主役たちに、元担任らが笑顔で語り掛ける。「大人っぽい顔つきになったな」「これまでは『ちゃん』付けだったけど、これからは『さん』付けで呼ばなくちゃ」

卒業生はにっこり笑ったり、拍手をして喜びを表現したり。目の動きで訴える人も。「うれしそうな顔しているね」と保護者も声を弾ませた。

「身体に重い障害のある人にとって、いつも死は身近にある」。前校長の坪井純一さんは言う。体調が急変し、在学中に亡くなる生徒もいる。成人を祝えることの意味は、それほどに重いのだという。

この成人式は、同校の前身・市立新治特別支援学校(緑区)時代から続く伝統行事。坪井さんが得意のカクテルを新成人たちへ振る舞った。ノンアルコールだが、目の前でシェーカーを振るオリジナルレシピの贈り物だ。

ほかの教員たちも、総出で歌やダンス、ギター演奏を披露した。工藤幹夫校長は、谷川俊太郎さんの詩を贈った。「成人とは人に成ること もしそうなら/私たちはみな日々成人の日を生きている/完全な人間はどこにもいない」-。

「家族だけでは乗り越えられなかった」。今は通所施設に通う暁さんを見つめ、久保田さんがまた笑顔を見せた。「こうしてまた先生たちに会えることが、息子にも親にも力になる。感謝の思いでいっぱいです」

◆混雑、介助…一般式典に壁

身体に障害のある新成人にとって、行政が主催する成人式に出席することは容易ではない。会場内や周辺の混雑、トイレの介助、さらに1月という寒い季節も壁となっている。

横浜市の場合、毎年3万5千人前後が成人を迎え、約65%が横浜アリーナ(港北区)での式典に出席する。しかし、障害者のために設けられる優先席の利用は「30、40人程度」(市教育委員会)にとどまる。毎年500人前後が市内の特別支援学校高等部を卒業しており、参加者はごく一部に限られているのが実情だ。

家族らでつくる市心身障害児者を守る会連盟は、同じ1月に障害者のための集いを開催しているが、こちらの参加者は例年200人弱ほど。多くは知的障害者だという。

市教委は2005年度まで、卒業生の社会適応指導のための「青年学級」事業費として市立12校に計約100万円を予算計上。旧市立新治特別支援学校はこの事業費を「成人式」に活用していた。だが「行政などが催す事業での福祉的配慮が進み、予算措置が必要なくなった」などとして、06年度以降は打ち切られた。

保護者の中には「母校だから安心して来られる」と学校での催しを望む声があり、市立若葉台特別支援学校は自校での「成人式」にPTA費を充てて継続している。「教職員は卒業生たちの個性や体調をよく分かっており、開催時期を選べることも大きい。今後も続けていきたい」と工藤幹夫校長。前校長の坪井純一さんは「成人の祝いも含め、卒業後の支援もあるとありがたい」と話している。

【神奈川新聞】

 
 

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