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害悪認識を出発点に
時代の正体〈36-2〉ヘイトスピーチ考

社会 | 神奈川新聞 | 2014年10月22日(水) 11:20

ヘイトスピーチの法規制については表現の自由を制限することへの懸念から慎重論も根強い。師岡康子弁護士はしかし、その害悪の深刻さと放置することの危険性を説く。

法規制の是非を論じる前に標的とされている在日コリアンが置かれている状況を確認する必要がある。それを踏まえなければヘイトスピーチの害悪は理解できない。本当の深刻さは全体的な差別状況と一体になっていることにあるからだ。

まず外国籍の在日は出入国管理法で日常的に管理されている。就職差別があり、アパートなどへの入居差別も多い。民族の言葉や文化を学ぶ権利が保障されていない。地方参政権もない。

つまり生活のあらゆる場面で差別されている。そうした人たちに「それは属性が劣っているから」と烙印(らくいん)を押し、言葉のナイフで突き刺すのがヘイトスピーチだ。

それは恐怖や心身の不調をもたらすだけでなく、自己を否定させ、社会への絶望を抱かせる。在日は関東大震災で虐殺に遭い、戦時中は性奴隷制度といった、植民地支配に始まる差別を何代にもわたり受けてきた。そうした属性に対する言動による攻撃は相手に何世代もの差別を思い起こさせ、何重もの苦痛をもたらす。

在日特権を許さない市民の会のメンバーらが有罪となった京都朝鮮学校襲撃事件では、悪(あく)罵(ば)にさらされた子どもの中には今でも日本人に会うだけで体がこわばり、音を流す車に街宣車を思い出しておびえる子もいる。差別デモに遭遇しないよう予定を確認しないと外出ができず、本名も名乗れないなど属性を理由に攻撃を受けないという自由が奪われている。

さらにヘイトスピーチは差別や暴力を広めて対象者を社会から排除し、最悪の場合、戦争やジェノサイドを引き起こす。1965年に人種差別撤廃条約ができたのもネオナチによりユダヤ人虐殺が再び起こるのではという危機感からだ。

表現の自由を制限する懸念から法規制に反対する声もあるが、ヘイトスピーチがマイノリティーの表現の自由を侵害していることへの危機感が薄いと言わざるを得ない。言葉の暴力でマイノリティーを沈黙させ、ともに歩もうという人も黙らせる。そうして民主主義を破壊する。

権力が規制を乱用する危険があるからといって問題を放置するのはおかしい。どんな法律にも乱用の危険性はある。極めて深刻な害悪があるのだから、乱用させない取り組みを進めていくべきだ。

差別を撤廃させる責任を国家が持つ。それが国際人権法の考え方だ。日本にはそのための法制度がほとんどない。政府はまず、どれほど深刻な状況にあるかのを調査し、差別撤廃政策の枠組みをつくることを出発点にしなければならない。

【神奈川新聞】

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