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新聞週間に問う(下)「紙で売る」に活路なく ニューズピックス編集長・佐々木紀彦さん

社会 | 神奈川新聞 | 2014年10月17日(金) 10:30

佐々木紀彦さん
佐々木紀彦さん

ネットニュースメディア「ニューズピックス」編集長の佐々木紀彦さんは「新聞という組織に未来はない」と言い切る。

部数は軒並み減り、広告収入も減り続ける。ネットメディアの台頭が背景にある。

「いまメディア業界全体が激動のときを迎えている。その中で新聞ほど時代の流れについていけていないメディアはない。取り残され、むしろ世間からずれさえしている。そのずれの象徴が、誤報問題をめぐる朝日新聞たたきだ。新聞に対する不満が一気に噴出している。大手メディア特有の“上から目線”に対する不信感だ」

同じく既存メディアのテレビや雑誌は、視聴率や売れ行きが内容に反映されてきた。だが、新聞は違う。

「独自に発達した宅配システムによって急激に部数が変動することがない。読者からの批判も都合が悪いものは無視しておけばいい。従軍慰安婦についての誤報も、ふたをしておけば検証する必要はなかった」

しかし、これこそが新聞の時代遅れの根源だと指摘する。

例えば、ニューズピックスでは、ネット上に掲載された個々の記事に読者がコメントを付けられる仕組みになっている。記事は即座に賛否にさらされ、批判を含め公開される。

「こうなると無視できない。誤りがあれば訂正し、必要に応じて謝罪や検証もやらなければならない。詰まるところ、朝日を別の新聞がたたいているが、中身を見ればどこも似たりよったり。一方通行の古い体質は同じだ」

フェイスブックやツイッター、ブログなどの急拡大で個々人がニュースや論調を批判したり、検証を求めたりできるようになった。自分たちの価値観に基づく報道を一方的に続けていては新聞と世間とのずれは拡大していくばかり、というわけだ。

さらなる苦境はスマートフォン(スマホ)の普及だ。

佐々木さんは「あと2~3年もすれば誰もがスマホでしかニュースを読まなくなる。新聞がスマホへの対応を怠れば、ジャーナリズムのメーンフィールドを失う可能性がある」とまで言う。

スマホの普及はメディア環境に強烈な変化をもたらしている。タブレット型パソコンやスマホといったハードウエアはどんどん使いやすくなる。普及のスピードもかつてとは比較にならない。

「あと数年で紙に近い感覚で操作できるタブレットパソコンが実用化されるだろう。新聞は紙だけでは影響力を到底維持できなくなる。技術の変化に対応した形で読者を獲得し続けなければ、世論形成の中心的な立場を失う」

だが新聞社にとって方針転換は容易ではない。長年培ってきた企業文化が足かせになるからだ。

「新聞の組織構造は紙に適合する形でつくられている。年功序列の給与モデルから人員配置、収益構造、コストのかけかたまで、すべてが紙で売る形を前提にしている」

そしてこう見通す。

「インターネットの世界でいまの新聞の組織が成り立つということは100%ない。その意味で新聞の組織に未来はない」

■影響力

では、新聞には衰退の道しかないのだろうか。

「そうはいっても、最も信頼性の高いニュースソースが新聞であることに変わりはない。事実関係の裏取りや調査報道などの作業はいまも新聞が圧倒的に強い。ネットメディアが急成長しているというが、どこも資金は乏しく余裕がない。ジャーナリズムの力はいまも新聞に残っている」

実際にインターネット上にあふれるニュースの源流はいまも変わらず、新聞やテレビだ。「特に、新聞の価値はファクト(事実)を集団で組織的に拾ってきて報じる点にある」

一方で感じているのは、読者が新聞に意見を求めなくなったという点だ。

「ネットメディアは新聞に比べ速報性や事実の把握が弱い。その分、オピニオンや分析、解説記事に力点を置いている」。専門家や学識者、芸能人が実名を出してネットへ見解を寄せる。こうした記事の方が、新聞の論説より影響力があると感じている。

「一般の人が考え方に影響を受けるのは、尊敬する人か、身近な人の意見。誰の主張か分からない新聞の社説や論説にいまや影響力はないだろう」

強みを認識し、戦略的に先手を打つ。新聞というニュースソースの活路はそこにある、とみる。

■理想像

では、急成長を遂げるネットメディアはどこへ向かうのか。

「雨後のたけのこのような現在を経て合従連衡の時代を迎えるだろう。次の変化で生き残れるのは、ニュースや動画といったコンテンツを供給する機能と、それを一般へ供給する機能の双方を持ったメディアだ」

これまでは、ヤフーなどのネット企業とニュースを供給する新聞や通信社、テレビは別の主体だった。今後はドコモやKDDIなどの通信メディアやネット企業が、その両方を手掛けるようになると指摘する。

新聞が衰退し、ネットメディアやネット企業、通信企業が業況を変えながら巨大化する。行き着く先は、ジャーナリズムの崩壊ではないか。

佐々木さんはそこに危機感を抱く。ネットの普及でニュースに人々が金を払わなくなった。

「ニュースメディアがそれだけで経営を維持できる時代は終わるのではないか。これまでは新聞の経営に余裕があったからジャーナリズムが成り立ってきた。既存メディアが厳しくなりジャーナリズムが衰退を続ければ、それは社会的損失に他ならない」

ニューズピックスを運営し、自身が執行役員を務める「ユーザベース」もまた苦境にある。「ニュースメディアの『ニューズピックス』だけでは食っていけない。データ化した企業情報を提供する『スピーダ』という別のサービスの稼ぎがあるからメディアをやれている。こうしたスタイルが一般化していくだろう」

メディアがメディアだけで稼ぎ、さらにジャーナリズムを実現する、そうした理想はもはや理想でしかなくなる。

新聞は苦境にあえぐが、もう一方のネットメディアの世界に夢のようなドル箱があるわけでもない。

佐々木さんは言う。

「メディア業界全体がこれから激動する。だからこそいま一番おもしろい」

ささき・のりひこ 1979年福岡県生まれ。慶応大総合政策学部卒、スタンフォード大大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月「東洋経済オンライン」編集長に就任、リニューアルから4カ月で5301万ページビューを記録し、同サイトをビジネス誌系サイト首位に導く。著書に「5年後、メディアは稼げるか」(東洋経済新報社)など。35歳。

【神奈川新聞】

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