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転機迎える消防団 団員の確保が難航

社会 | 神奈川新聞 | 2014年10月2日(木) 11:00

幸消防団内に創設された機動部隊=昨年11月、幸消防署
幸消防団内に創設された機動部隊=昨年11月、幸消防署

火災や災害時に身近な地域で活動する消防団が転機を迎えている。江戸時代の「町火消」の伝統を受け継ぎ120年もの歴史を持つが、社会情勢の変化で担い手不足が深刻化。災害が多様化する中、期待される役割は広がるものの、避難誘導などに当たった東北沿岸の消防団員に200人近い殉職者を出した東日本大震災は安全確保の課題も浮き彫りにした。地域防災の「主役」はどこへ向かうのか。

消防団員の確保が思うように進まない。東日本大震災の教訓も踏まえ、昨年12月に消防団充実強化法が成立。国や自治体は一層の人材確保策を求められているが、県内33市町村の団員総数は今年4月1日現在で1万7994人と1年間で92人減った。小田原、綾瀬両市と二宮町以外の30市町村で団員数が定数を割り込んでいるが、独自の打開策を試みる地域も出始めた。

県内の団員総数は昨年4月時点で1万8086人を数え、7年ぶりに増加。反転の兆しをみせたが、2年連続の増加は果たせなかった。各市町村が条例で定める定数(計2万82人、今年4月現在)に対する充足率は89・6%にとどまる。

898人から882人に減った横須賀市。市消防局は「団長らの3年に1度の改選期に当たり、そこを区切りとして辞めた人が多く、新規入団者の数を確保できなかった」と説明する。続く市内人口の減少傾向が団員確保に影を落とすが、「大学生や専門学校生ら若い団員も30人以上いる。地道に入団を呼び掛けていく」としている。

団員数が7千人を超え、県内全体の4割近くを占める横浜市では地域格差が広がる。中区を除き区ごとに組織されている20消防団のうち、神奈川区は19人減、泉区は28人減とこの1年間で大きく減った。いずれも「定年などで退団する人の穴埋めができなかった」という。

団員不足の背景には、地元を留守にしがちなサラリーマンの増加も挙げられているが、同市内で唯一、団員数が定数(230人)を満たしている西消防団は、これを逆手に取るアイデアで打開を図っている。

横浜駅周辺やみなとみらい21(MM21)地区などは事業所や施設が多い。そこに協力を求め、西区に勤める人を「勤務地団員」として積極的に採用。夜間や休日の出動は難しいが、西消防署は「地元住民のみが担い手となる発想では、都市型消防団の運営は難しい。それぞれの団員が出動可能な時間帯に活動する方が人材を確保でき、意欲の向上にもつながる」という。

県内全体で千人余りと団員総数の6%にとどまっている女性団員を積極採用する動きも広がり始めた。

小田原市には今春、20人の女性団員が初めて誕生。条例定数を20人増やして募集したが、応募は32人に上り、関心の高さをうかがわせた。市消防本部は「主に火災予防や救護法の普及などに女性の目線や人脈を生かして取り組んでもらいたい」と期待を寄せる。

藤沢、秦野市でも、それぞれ初の女性団員が1人ずつ採用された。「団員の詰め所を更新整備する中で女性用のトイレや更衣室を確保していきたい」(藤沢市消防局)と、さらなる増加を視野に入れている。

県消防課は今後、市町村の担当者を集めた会議を開く予定で「先進的な試みを紹介し、団員確保につなげたい」としている。

◆災害救助に「職人技」

地震や集中豪雨などの大規模災害に備え、建設重機を扱う地域の消防団員を「機動部隊」として現場へ投入し、人命救助をサポートする態勢づくりが、川崎市で進んでいる。パワーショベルやチェーンソーなどを駆使し、土砂やがれきを撤去。従来の復旧作業にとどまらず、災害発生直後の現場で救助活動の一翼を担うのが主眼だ。国内で相次ぐ土砂災害を受け、その役割と期待はさらに増している。

建物が倒れたり、道路が寸断されたりして人力による救助活動が困難な災害現場に、消防署の応援要請を受けて駆け付ける。重機を操り、救助活動を展開する上での障壁を取り除くのが機動部隊の任務だ。

幸区在住・在勤の民間人らで組織する幸消防団(157人)内に部隊が発足したのは昨年11月。市消防局独自の取り組みで、多摩消防団に続き2例目となる。部隊は建設機械の免許を持つ大工やペンキ職人など16人で構成。隊員らが所有するパワーショベル3台、大型車両13台も確保している。造園業を営む髙橋克明団長は「自分たちの街は自分で守るという意識が大切」とその使命感を口にする。

当初は首都直下地震などの震災を想定していたが、70人を超す死者を出した広島市の土砂災害をはじめ、今夏は台風や集中豪雨による被害が続く。幸区でも7月下旬、1時間雨量84ミリを記録する豪雨に見舞われた。

区内は比較的平たんで、土砂災害が起こりにくいとされるが、幸消防署の関係者は「いま川崎に大きな災害が起きていないだけ。大規模な冠水や竜巻などがあれば、消防署だけでは対応できない可能性もある」と、機動部隊に寄せる期待は大きい。

昨年10月に市消防局員を派遣した東京・伊豆大島の土砂崩れ現場でも、土砂に交じった倒木に阻まれて行方不明者の捜索が難航。「地元の消防団員の所有していたチェーンソーが役に立ち、重機のメンテナンスにも協力してくれた」(同消防局)経験がある。

「大きな災害になれば、自分たちが出て行く心構えはできている」と髙橋団長。より多くの建設重機を確保できるよう、同業者のネットワークづくりを急ぐなど、さらに知恵を絞っている。

◆消防団の充実強化 議員立法で昨年12月に成立した消防団充実強化法は、国や自治体の役割として消防団員の確保、出動や訓練に伴う報酬の見直し、装備の充実に向けた財政措置などを規定。事業所や大学に対しても、入団や活動に対する配慮を求めている。総務省消防庁には対策本部が置かれ、消防審議会は今年7月、女性や大学生、公務員の加入促進、消防団活動に協力的な事業所に対する優遇措置などを求める中間答申を出した。

【神奈川新聞】

 
 

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