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相次ぐ公共工事の入札不調 需給逆転で逼迫感

社会 | 神奈川新聞 | 2014年10月1日(水) 10:00

建て替えの施工業者が決まらずプレハブ校舎のままとなっている鎌倉市立大船中学校=鎌倉市大船4丁目
建て替えの施工業者が決まらずプレハブ校舎のままとなっている鎌倉市立大船中学校=鎌倉市大船4丁目

県内の自治体で公共工事の落札者が決まらない異常事態が相次いでいる。東日本大震災の復興需要に加え、2020年の東京五輪開催に向けた建設需要で、建設資材費や労務費が高騰し、自治体が見込む工事費を大幅に上回ってしまっているためだ。背景には政府主導の強引な経済政策と、それに見合っていない日本の建設人材の現状が見え隠れする。ミスマッチの現場を追った。

「夏はエアコンを入れても30度を超えた。廊下に至っては40度。早く建て替えてもらいたい」。関係者が頭を抱えているのは鎌倉市立大船中学校(同市大船4丁目)の一件だ。

同校の校舎がプレハブとなったのは2012年4月。築50年を超えた既存校舎の耐震性不足が発覚し、急きょテニスコートに仮設校舎を建てた。以来、約500人の全校生徒がプレハブ校舎で授業を受けている。

鎌倉市は、大船中建て替え工事費として14年度当初予算に総額34億7295万6千円を盛り込み、今年4月の入札で施工業者を決め7月にも着工する予定だった。

ところが想定外の事態に陥る。

1回目の入札は応札者なし。2回目は応札条件を緩和したものの、入札価格が予定価格を上回り、不調となった。

この時点で市況に見合った予算ではないことがうかがえるが、市担当者は「可能性があるならチャレンジしたい」と再度の入札を8月1日に実施。だが、またしても予定価格を超えてしまった。

3度の不調となり、市は最新の建築資材単価や労務費を積算し直した。補正予算で、当初から9億7千万円、約28%増の44億4295万6千円とした。10月中旬にも再公告する方針で、市教育委員会の担当者は「同じことを繰り返すことはないと思う」と話す。

■営業マン来ず

県内の建設会社幹部はこうした自治体の対応に、「市場環境が大きく変化していることをまったく理解できていない」と手厳しい。

この20年、国内市場の縮小と公共工事の削減により工事は減り続けてきた。自治体から発注される数少ない公共工事には何社もが応札し、最低制限価格すれすれの数千円単位の差で落札業者が決まるという状況があった。

風向きが変わり始めたのは東日本大震災以降の復興工事需要が本格化してからだ。加えて昨年9月に東京五輪開催が決定し、首都圏のインフラ整備が進み始めると、売り手と買い手が逆転した。

ある業者は不調が相次ぐ理由を明かす。

「請け負った工事で既にほぼ手いっぱい。それに、今後も工事費は上がっていく可能性がある。受注してから工期中に資材価格が上がればその分、利幅が薄くなる」。かつてなら、それでも受注した。だが、「いまの市況を踏まえれば、そんなリスクは負う必要はない」

県内の自治体担当者はこの逆転現象を肌で感じていた。「ここ最近、ゼネコンの営業マンがめっきり来なくなった」

市場状況の急変に見合った条件の緩和といった発注方法の変更が求められるものの、鎌倉市の市教委担当者は「資材が高騰しているのが理由。発注方法に特に大きな問題は感じない」と腰は重たい。県内建設会社幹部は憤る。「市況が理解できていなくても自治体担当者は死なないが、われわれにとっては死活問題だ」

■広がる「余波」

自治体発注の入札不調は鎌倉市だけで起きているわけではない。三浦市では、市立三崎中学校(同市三崎町六合)の体育館と武道場の建設工事で入札が不調に終わり、総事業費を当初予算の約1・2倍となる5億1905万円に引き上げて再入札する方針だ。

入札不調は単に施工業者が決まらないというにとどまらず、その施設利用者や関連する別のプロジェクトの進捗(しんちょく)にも影響は広がる。

県が計画している県総合リハビリテーションセンター(厚木市七沢)の再整備工事は今年3月に2度不調となり、約40億円上乗せした総事業費151億8300万円で再入札する計画だ。県によると、当初予算時点から、現在の資材単価などを基に再積算したところ、事業費が約35%膨らんだという。

民間ベースの計画でも影響は出ている。

小田急電鉄はこの10年間にわたって計画を模索してきた向ケ丘遊園跡地開発(川崎市多摩区、約15ヘクタール)について今年4月、白紙にすると発表した。同社は「人件費が(計画策定の)2010年と比べ約3割高騰、工事費全体で約1割上がったため、計画を練り直す」としている。

慌てたのは跡地のある川崎市だ。「時間をかけて緑地の保全や開発のボリュームなどで協議を重ねてきた。ここにきていきなり白紙とは」と今後の迷走を懸念する。

藤沢市では、大型複合再開発のエリア内に設けられるはずの特別養護老人ホーム(100床)が暗礁に乗り上げた。事業者の社会福祉法人「長岡福祉協会」(新潟県長岡市)が、事業撤退を市へ報告したのは既に着工しているはずの7月になってからだった。同協会の担当者は「5月に入札したが3割近く価格に乖離(かいり)があった。苦渋の選択だが、撤退せざるを得なかった」と明かす。

一方、既に事業を認可し、補助金の交付決定も済ませていた藤沢市は困惑を隠さない。市の担当者は「急きょ事業者を再募集しているが、良くて1年、場合によっては2年は開設が遅れる。スムーズに決まればいいが」。入所を待つ高齢者への影響は避けられそうにない。

◆「経済政策の反動」

現状の需給バランスについて、公共発注に詳しい建設政策研究所の市村昌利研究員は「かつてない逼迫(ひっぱく)感」と指摘する。

公共投資は1990年代後半をピークに減少を続け、建設技能労働者も97年のピークから120万人近く減り、2013年には338万人となった。市村研究員は「いわゆるバブル期にはいま以上に工事があったが、それを受け止めるだけの建設労働者も市場にいた」と説明する。

入札不調が相次ぐ背景には、こうした業界自体が抱える構造的な人材不足が根底にあると指摘する。さらに東北の震災復興需要、東京五輪に向けた建設需要に加えて政府が誘導する建設投資の増額配分だ。

20年の東京五輪までこうした傾向は続く見通しで「東北の復興工事が遅れたり、自然災害の際の復旧需要に対応できない恐れもある」と懸念材料を挙げる。

だが、市村研究員は「より心配なのは東京五輪後だ。建設市場の縮小は避けられない。落差がどのくらいになるか予想がつかない」と話す。

政府は、労務単価の見直しや社会保障の充実に手を付けず、公共工事を減らし続け、介護や農業など異業種への進出さえも政策誘導してきた。そうした市場環境を踏まえないまま景気対策として建設投資へと舵(かじ)が切られ、その反動が相次ぐ入札不調に現れていると市村研究員はみる。「五輪後を見据えれば、多くの建設業者は、いま工事が増えたからといって人を大量に雇い入れるのはリスクがあるとみている」として、構造的な問題が解消されない限り入札不調の混乱は続くと指摘している。

【神奈川新聞】


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