さがみロボット特区指定1年半 実用化へ高まる機運
社会 | 神奈川新聞 | 2014年8月30日(土) 03:00
県が主導しロボット産業の集積・活性化を目指す「さがみロボット産業特区」が、国の指定を受けてから1年半が経過した。圏央道(さがみ縦貫道)を軸とする10市2町のエリア内では生活支援、介護・医療、災害対応のロボット開発や実証実験が進み、6月には特区発の第1号商品を発売。自治体や企業、大学などでつくる「さがみロボット産業特区協議会」(会長・黒岩祐治知事)への新規参入も相次いでおり、成長産業の実用化に向けた機運が高まっている。
第1号商品を開発したのは、厚木市の中小企業グループ「エルエーピー」。神奈川工科大・山本圭治郎教授の研究成果を基に、まひが残って動かせない手指の曲げ伸ばしをサポートする福祉ロボットを3年がかりで開発した。
昨年には県が重点プロジェクトに指定し、実証実験支援など商品化を後押しする動きが加速。同社はさらに精密に動くロボットの開発を進め、2016年度の商品化を目指している。
大企業と中小企業との技術連携による共同開発を促し、地域活性化につなげる狙いもあるロボット特区。一部では技術マッチングの動きも見え始めてきた。
今年8月、協議会に新規加入したのはセキュリティー最大手のセコム(東京都)。同社IS研究所の小松崎常夫所長は「優れた技術を持っている企業とお付き合いしたい」。約20年間で福祉や警備分野のロボットを実用化してきたセコムは現在、自律飛行する小型監視ロボットを開発中だ。不審者の侵入を検知して接近・追跡し、撮影した画像を送信する小型ヘリコプターには外部調達の衛星利用測位システム(GPS)やレーダーなどが組み込まれている。
小松崎所長は「私たちがやりたいことを、もっとうまくできる企業がいれば大歓迎。提案していただく場が大切で、協議会はその一つ。人と人とが出会わないと“化学反応”は起きない」と期待する。
ロボットの実用化と普及には、ロボットが少子高齢社会を支える必要不可欠な存在として広く理解を得られるかが鍵を握る。
普及啓発を進める県は5月、県内の住宅展示場など3カ所に無料体験施設を開設。日常に近い環境でロボットに触れられる機会を提供し、8月からは各住宅展示場を巡回して市民理解の促進を図る狙いだ。
県産業振興課は「今後もロボットを社会に溶け込ませる仕組みを探り、普及・定着を進めたい」と話している。
◆介護ロボの保険適用を国へ申請
ロボット産業の誘致・活性化に向け、自治体や企業、大学などが事業展開計画を話し合う「さがみロボット産業特区協議会」は、食事介助など生活支援ロボットの介護保険適用を国に申請した。利用者の経済的負担を軽くすることで普及を加速させるのが狙い。29日に横浜市内で開いた協議会で報告した。
申請したのは、富士ソフト(横浜市)のコミュニケーションロボット「パルロ」や、セコム(東京都)の食事を手助けする「マイスプーン」など同協議会の会員企業や県内企業が手掛ける5製品。本年度中に開かれる審議会で保険適用が認められれば、来年度から介護保険でカバーできる。
生活支援ロボットの普及の課題の一つに低価格化があるが、現在の販売価格は数十万円以上でレンタル代も高額。介護保険が適用されれば本人負担は1割で済み、介護施設も導入しやすくなるため、普及が進む可能性がある。
この日の協議会では、生活支援ロボットの普及・定着に向けた課題を話し合ったほか、クリエーターの三寺雅人さんが手掛けたロボット特区のPR動画やホームページが披露された。
【神奈川新聞】