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STAP細胞問題 日本学術会議・大西隆会長に聞く 不正防ぐ仕組みづくりを

社会 | 神奈川新聞 | 2014年8月27日(水) 10:00

日本学術会議・大西隆会長
日本学術会議・大西隆会長

理化学研究所(理研)発生・再生科学総合研究センター(CDB)の研究ユニットによるSTAP細胞論文不正をめぐり、日本学術会議は7月下旬、論文関係者の責任を明確にして再発を防止するよう理研に求める声明を発表した。全容解明が足踏みする中で、日本の科学者の代表機関が理研の姿勢をただした格好だ。ただし、鍵を握るCDB幹部が自殺するなど事態は混迷を深めている。同会議の大西隆会長にSTAP細胞が日本の科学技術に与えた影響、声明の狙い、今後の不正防止のあり方を聞いた。

-声明では「研究全体が虚構ではないかという疑念を禁じ得ない。わが国の科学技術研究に負のイメージを与える状況が生み出されている」と、強い懸念を示している。

「(声明発表の)直接の契機は理研が設置した改革委員会が6月にまとめた再発防止策だ。STAP細胞の研究が行われていたCDBの解体を提言するなど、想像以上に強烈な内容だった。その後、理研はSTAP細胞の実証実験にユニットリーダーの小保方晴子氏の参加を決める一方、関係者の処分を延期した。すでに論文不正は決着がついているので、再現実験の結果にかかわらず、関係者の責任を明確にして処分を下すべきだと考えている。新たな疑惑に対する追加調査の可能性もあるだろうが、責任の所在をあいまいにしたまま、いたずらに処分を引き延ばすのはよくない」

「改革委は、理研CDB指導層に対して、不正を防ぐ機会を漫然と見逃し問題を巨大化させたと、大きな過失責任を指摘している。STAP細胞研究とは関係のないCDBの若手、中堅研究者を巻き添えにしないためにも、理研として改革委の指摘に対する見解を早急に示す必要がある。科学界全体にマイナスイメージを与えたのは否めないのだから、これを契機にした改善が見えてこないといけない。不正を防ぐ仕組み、体制が整えられたと納得できる改革を前進させることが重要だ」

-ネット上での専門家の指摘が不正発覚の端緒の一つになった。

「従来、学術論文は学会で発表され学術誌に掲載されていたが、近年はネット(オンライン版)上にオープンになるので、論文の評価に専門家の誰もが参加できるようになった。指摘や意見は玉石混交だが、説得力のある見解や批判もあるので、賛同者が増幅され、短期間に意見が集約され大きくなっていく。こうした流れは避けられないだろう。むしろ最初に論文を発表する段階では、割り切ってできるだけ敷居を低くし、ネットも含めて専門家が検証しながら評価を固めていくという流れにしていくのが良いという意見も強くある」

「STAP細胞論文は海外の有力科学誌に掲載されたこともあり注目を集めた。しかし、有力誌に掲載されたからといってトップを極めただとか、ノーベル賞に値するなど短絡的にとらえるやり方は変えていった方がいい。一方で、論文評価の難しさはライフサイエンス(生命科学)研究分野の特質であるのかもしれない。ボールを100回、空に向かって投げれば、100回落ちてくるという『再現性』が保証された物理学、あるいは化学の世界とは異なり、ライフサイエンスは研究対象が生き物なので個体差がある。特定の薬がすべての患者に効くとは限らず、個体に突然変異的に特定の現象が起きる可能性もあり得る。こうした特質をわきまえた上で評価していくことが必要だ」

-STAP問題を受け、理研が有力候補だった、世界最高水準の研究開発を進めるための「特定国立研究開発法人」の指定が頓挫している。一方で、国は科学技術、特にライフサイエンスや医療分野の研究をオールジャパンで加速させる体制を整備した。

「ライフサイエンス分野が日本にとって重要であることに変わりはない。医療研究の司令塔となる日本医療研究開発機構も動きだしている。ただし、米国に比べると予算規模にだいぶ差がある。米国の研究機関や企業と同じように幅広い戦線を張って勝負するよりは、日本らしさをどう出していくのか、選択と集中が求められる。研究者にはそれぞれの役割があり、基礎研究から製品化までの間に連なるいろいろな工程を役割分担してつないでいくことが重要だ」

「応用研究と実用化の間にはよく『死の谷』があると言われる。それは工程の中にある弱い部分であり、そこを埋めることのできる研究者が出てくれば最終製品までつないでいける。研究のきっかけになる好奇心は大事だが、それが発展して社会に還元されるところまでいかなくてはならない。研究者の好奇心を満たすだけで終わらせないためには、研究開発の最終的なアウトプット(出口)、多様な市場の側から科学技術の多様性を追求するという発想も大切だ」

-STAP細胞問題と前後して医師主導臨床研究への製薬会社の不適切な関与など他の研究不正も相次いで発覚した。

「不正には大きく分けて研究費の不正と研究自体の不正の2種類がある。前者は金の使い方の問題なので、研究費使用の手続きをきちんとルール化することで防げる可能性がある。後者は研究者の良心が絡むもので重要な課題だと認識している。倫理教育の徹底や倫理面をチェックする仕組み、体制の整備といった取り組みを重ねていかないといけない。研究開発も社会との対話が必要で、『象牙の塔』的な発想ではなく、世の中から見てどうなのか節目節目で整理していく必要がある」

-不正問題を乗り越え、日本の科学技術の将来はどうあるべきか。

「日本は資源に恵まれているわけではないので、資源の加工で生きていくのが宿命といえる。製造業の分野で日本は世界の中位から上位にいるが、ライバルも多いと認識すべきだ。科学と技術の融合に優れているという特性を生かし、ロボットや医薬品、精密機械、センサー技術といった分野を伸ばしていくことが、新たな発展に結びついていくだろう」

◆STAP細胞問題 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の小保方晴子氏と笹井芳樹副センター長らが体細胞に刺激を与え新たな万能細胞「STAP細胞」を作ったと、今年1月に英科学誌ネイチャーに論文を発表した。しかし、3月以降、画像や文章の流用などが相次いで発覚。理研の調査委員会は小保方氏に捏造(ねつぞう)や改ざんがあったと認定した。理研の改革委員会は、笹井氏の「責任は重大」と指摘し、センターの解体を提言した。ネイチャーは7月に論文を撤回した。STAP細胞の有無を確かめる理研の検証実験の準備が進められているさなか、8月5日、笹井氏が自殺。調査への影響が懸念されている。

おおにし・たかし 1948年生まれ。東大大学院工学系研究科修了(都市工学)。同科教授など歴任。2011年10月から現職。豊橋技術科学大学長。

【神奈川新聞】

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