
取り壊しの計画が持ち上がった横浜最古の倉庫建築である旧日東倉庫日本大通倉庫(横浜市中区)をめぐる緊急シンポジウムが5日夜、同区の横浜市開港記念会館で開かれ、約120人が参加した。専門家の一人は、6月に世界遺産登録された群馬県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」を引き合いに、同じく絹産業に縁の深い同倉庫を「世界遺産の資質がある」と高く評価。保存の必要性を訴えた。
専門家などでつくる横浜歴史資産調査会が主催した。同倉庫は隣り合う旧三井物産横浜ビルの倉庫として1910(明治43)年に完成。輸出向け生糸も収めた希少な建物だが、同倉庫と同ビルを昨年取得した不動産業ケン・コーポレーション(東京都港区)が最近、倉庫の解体を表明した。
シンポで、建築史が専門の吉田鋼市・横浜国大名誉教授は「(歴史を積み重ねた建物は)社会的な存在だ」と指摘し、所有者だけでなく市民を交えた議論が必要であるとした。
市文化財保護審議会の委員である水沼淑子・関東学院大教授は、82年に日本建築学会が同倉庫の保存を要望した経緯を挙げ「前から価値が知られていたのに、規制の網を掛けることができなかった」と、保存のための法的な条件が不十分である実情を説明した。
大野敏・横浜国大大学院准教授は、鉄筋コンクリート、れんが、木材という異なる材料を巧みに組み合わせた同倉庫の構造を「極めてユニーク」と述べた。
文化庁の調査官として富岡製糸場の調査を手がけたこともある建築史家の堀勇良さんは、明治期の横浜が生糸輸出で発展したことに触れ、「震災前の生糸貿易の業態を伝える建物で、世界遺産にもなり得る」と強調した。鈴木伸治・横浜市大教授は「保存のための新しい方法を生み出さなければならない」と話した。
シンポでは保存を目指すアピールを採択。「横浜に残る生糸文化の礎をみんなで守ろう」と提言した。
【神奈川新聞】