29日の土用の丑(うし)の日を前に、流通各社のうなぎの売り場がかつてない難しい局面を迎えている。稚魚(シラスウナギ)の4年連続の不漁から一転、今年は漁獲量が増えたものの、店頭価格は依然、高水準で推移。しかし、ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されたことが消費者の飢餓感を呼び、販売側からは「追い風」との声も。一方で資源保護の声が高まるのは確実で、「日本の食文化が失われる」と危機感を抱き、消費者や業界を含めた意識改革の必要性を訴える関係者もいる。
「さぁ~、うなぎ、うなぎ~…」。そうてつローゼン大和店(大和市)の鮮魚コーナー。威勢のいい男性の声の録音テープが、繰り返し流れる。「今週末から当日までが勝負」。相鉄ローゼン(横浜市西区)水産部マネジャー松本隆夫さんが、力を込めた。
同社の主力商品は、鹿児島県産の1匹1580円(税別)。大きさは昨年と比べやや小ぶりながら、昨年と同じ価格帯を維持したという。
水産庁の統計によると、国内における今シーズンのシラスウナギの漁獲量は16トン。それまで4年間、不漁続きだったが、前年(5・2トン)の約3倍に増えた。昨シーズンの取引価格は1キロ約250万円。最高で300万円ほどつけたこともあった。それが今年は約90万円まで下がったという。
「豊漁」報道により、今年の丑の日は、うなぎが安くなるとの期待が高まったが、稚魚が成長するまでには1年ほど要する。つまり、今年の商戦には間に合わない。松本さんは今年も相場が上がると予想。販売数量の確保に向け、2月ごろから動いていた。「早い時期から動いたからこそ、安全・安心、かつ(消費者が)買いやすい価格を実現できた。何としても前年以上の売り上げを狙う」
京急百貨店(横浜市港南区)は前年比8%増の売り上げ目標を掲げる。うなぎは地下食料品売り場、レストランともにこのところ好調。「ニホンウナギが絶滅危惧種に指定され、今より高価になってしまう前に食べておこう、という消費者心理が働いているのでは」と担当者。現在の状況を「追い風」と表現する。
流通各社の盛り上がりの一方で、「今まで、業界の誰も経験したことのない事態」と危機感を募らせるのはヨコレイ(横浜市西区)の子会社で、うなぎの専門商社クローバートレーディング(東京都中央区)の栗山知浩営業部長。
今年のシラスウナギの「豊漁」に、業界全体が喜んだというが、半世紀前にさかのぼれば年間漁獲量は200トンを超えていた。「1キロ2万~3万円でも高いとされた時代があった。長い目で見れば、豊漁とは言えないのかもしれない」
高値が続き、若い世代がうなぎを食べなくなったと実感する。「骨がある」と真顔でクレームを言ってくる客もいる。加えて、国際自然保護連合(IUCN)によるニホンウナギの絶滅危惧種指定。将来的に、うなぎが輸出入の規制対象になることも考えられる。
そうなれば、ますます庶民の手に届きにくい存在となり、夏にうなぎを食べるという日本の風習が、なくなってしまわないか-。栗山さんは、そう危惧する。
天然資源の稚魚に依存せず、人工ふ化させる研究も進むが、まだ実現に至っていない。「日本の食文化をどう守っていくか。資源管理の問題も含め、商社、養殖業者、漁師、流通業界、それぞれの立場から考えていかなければならない」
【神奈川新聞】