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スノーデン事件 ライアン教授講演 民主主義壊す「監視社会」

社会 | 神奈川新聞 | 2014年7月25日(金) 10:30

監視社会について語るライアン教授と日本人研究者ら=17日、横浜市神奈川区のかながわ県民センター
監視社会について語るライアン教授と日本人研究者ら=17日、横浜市神奈川区のかながわ県民センター

元米国国家安全保障局(NSA)職員エドワード・スノーデンさんが暴露した米国と協力国による全世界での情報収集活動は、世界に衝撃を与えた。「監視社会」「大量監視」の急速な進展は個人の尊厳、自由、権利を侵害し、民主主義を崩壊させるとの危機感が高まっている。監視社会問題の世界的研究者デイヴィッド・ライアン教授が17日、市民団体の招きで行った講演と日本の研究者3人との議論を紹介する。

まず1人の男性の話をしましょう。彼は愛国的米国人で共和党支持者、高レベルのセキュリティー検査をクリアして国土安全保障省で働いたほか、海軍にも勤務していた法律家です。ところがスノーデン事件で、NSAと中央情報局(CIA)が彼の電子メールを盗聴していたことが分かりました。なぜか。彼がイスラム教徒だったからです。同様な盗聴は、他の多くの著名なイスラム教徒の米国人にも行われていました。

スノーデン事件が明らかにした普通の市民に対する大量監視は、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの「ファイブ・アイズ」5カ国を中心に、日本を含む30カ国以上、北大西洋条約機構(NATO)などの組織が関わっていました。細かく張り巡らされた網の目によるグローバルな監視です。

フェイスブック、グーグル、マイクロソフトなどのインターネット会社やソーシャルメディアの正確な個人データをプログラムを使って入手。人々の居場所、興味、連絡相手、メッセージ内容などから関係図を作り、人物像やネットワークを明らかにして疑わしい人物を捜索していました。

日々の暮らしはますます見られやすくなり、見張っている人々はますます見えにくくなっています。個人や団体に対する監視の力は増大するばかりです。政府には説明責任があります。

■萎縮効果

他人の目、特に政府の目の届かないところで、個人が考え、話し、自分自身でいられる領域があることは、自由な人間であるための権利、市民的自由であると考えられています。そしてそれは、恐れを感じず政府に反対できる民主的社会と結びついています。

民主主義は、同意しないことや多様性を奨励し、疑いや恐れではなく信頼を育てます。民主主義は尊敬、公平性、権利に関与することです。しかし、政府による大量監視で、プライバシー、権利、民主主義は危機に瀕(ひん)しています。これらは長い時間をかけて勝ち取られたもので、壊れやすい美しい陶器のようなものなのです。

実際、スノーデン事件によって、政府に反対する人、抗議する人、内部告発者ら、政府を批判する全ての人々が調査対象になっていることが明らかになりました。増大する政府の監視は、しばしば萎縮効果、自己検閲も生み出します。2013年の調査で、スノーデン事件後、多くの作家が報復を恐れて発言を控えたり、ある種の題材を避けたりしていることが分かりました。

■異なる道

スノーデン事件に関する米国の調査報告も「政府が大量のメタデータ(ある情報についての抽象度の高い付加的情報。人物なら氏名、生年月日、職業、信仰など)をつかんでいる現在のあり方は、公共の信頼、個人のプライバシー、市民的自由に潜在的危険を生み出している。オンラインで脅かされている自由と権利はプライバシーの枠を超えている」としました。

「ビッグデータ」を使った監視は、未来に焦点を当て、前もってリスクを除く予測型になっています。このアプローチは、時間をかけて完成された「推定無罪」の原則を危険にさらしています。データ分析者が「容疑者」を発見するとき、この人たちは「有罪」として扱われるという不愉快な傾向があるからです。未来はコントロールされ、暗いものになっています。(メタデータを使って人々を類型化する)社会的振り分けで、人間の尊厳も否定されようとしています。

しかし、未来を明るくする他の方法もあります。現在を批判する方法として、より好ましい世界、オルタナティブ(代替的)な政治やインターネットのシステムを考えることです。大量監視の時代となり、誰もが例外なく、監視を避けることは不可能になりました。だからこそ、監視の問題に取り組む運動が世界的に広がり、ますます大きなスケールになっています。代替案を提案し、そのために闘うのに遅すぎることはありません。

◆スノーデン事件 米国中央情報局(CIA)、国家安全保障局(NSA)元職員のエドワード・スノーデンさんが2013年6月、「プライバシーも自由も存在しない世界には住みたくはない」と、米国政府の秘密活動を暴露。NSAの機密文書によって、米国政府が全世界で電話回線やインターネットの通信を傍受し、大量の個人情報を収集していたほか、日本を含む同盟国の大使館や国家元首の携帯電話の盗聴も行っていたことなどが明らかになった。スノーデンさんは現在、米国による逮捕を逃れ、ロシアに滞在している。

デイヴィッド・ライアン(David Lyon) 1948年英国エディンバラ生まれ。カナダのクイーンズ大教授(社会学)。監視社会研究の第一人者として世界的に知られる。主な著書(邦訳)は「監視社会」(青土社)、「9・11以後の監視」(明石書店)、「私たちが、すすんで監視し、監視される、この世界について」(青土社)など。7月13~19日にパシフィコ横浜(横浜市西区)で開かれた「世界社会学会議横浜大会」に出席するために来日した。

◇秘密法成立、日本の研究者警鐘

「盗聴対象拡大」「米の情報収集に寛容」

ライアン教授の講演に続き、日本での監視社会研究を代表する上智大の田島泰彦教授(情報メディア法)、富山大の小倉利丸教授(現代資本主義論)、日本体育大の清水雅彦教授(憲法学)の3人が、特定秘密保護法が成立した日本の現状を報告した。いずれも、監視が強化され続けている日本の現状に警鐘を鳴らし、市民が監視に抵抗することの必要性を訴えた。

田島教授は「盗聴法の改正で盗聴の対象が広げられようとしている」と指摘。6月の国会法改正では、付則で「(日本版CIA、NSAなどの)新たな情報機関の設置表明さえ示されている」とし、スノーデン事件が示した問題は「日本でも進行している問題」だとした。特定秘密保護法の制定や集団的自衛権行使の容認の動きは、軍事大国化、日米の軍事一体化という枠組みの中に位置付けられるとした。

小倉教授は「NSAが日本で何をやっていたのか、公開させなくてはならない」と強調した。やはり米国の盗聴対象となったドイツ政府が米国に強く抗議したことと比較し、「日本政府は沈黙を守っている。日本政府はわれわれの政府でなく、米国のエージェントなのか」と疑問を投げ掛けた。特定秘密保護法の制定に熱心だった日本政府が、米国の情報収集には異常に寛容であるのは、戦後の日米関係のありようを象徴的に示しているとした。

清水教授は「普段の消費のために使う情報が、いざとなると治安のためにも使われる」と現状の深刻さを指摘。「戦争する国に突き進む中で、軍事と治安の両方の肥大化が進んでいる」と警鐘を鳴らした。メールは見られている、インターネットは危険だという認識を持つ必要があるとし、「自らの情報を守るために、どこまで個人が強くなれるかが問われている」と述べた。

3人の報告に対しライアン教授は「闘う相手はNSAなどの巨大組織だけではない。会社など自分が所属している組織も同じ手法を使っている」と述べ、「個人がそうした組織で、できることをすべきだ」と呼び掛けた。インターネットを使わない選択肢は難しいとして、監視社会に抵抗するには「インターネットは使いながらいろいろな取り組みを行うことも可能だ」とし、「現実的な、人間的な道を切り開くべきだ」と訴えた。

【神奈川新聞】

 
 

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