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事件起こした精神障害者の「医療観察制度」 開始10年も理解広がらず

社会 | 神奈川新聞 | 2014年7月24日(木) 14:30

医療観察制度の流れ
医療観察制度の流れ

精神障害のため殺人や放火などの刑事責任を問われなかった「触法精神障害者」を社会復帰につなげる受け皿づくりが、思うように進んでいない。従来の医療に加え司法と地域が連携、多面的に支援する「医療観察制度」がスタートして今月で10年目に入ったが、地域での支援を担う福祉・医療従事者の理解は必ずしも広まっていない実態がある。

◇「また事件」入居や通所拒否相次ぐ

県内の40代の男性は、統合失調症を患い、親族に対する他害行為で逮捕された。心神喪失を理由に不起訴となり、同制度に基づき専門治療を受けるため医療機関に入院。退院後の生活支援の調整に当たる横浜保護観察所は、家族に同居を求めたが、親族が被害者となったことから難色を示したため、男性の居住先を見つけなければならなくなった。

保護観察所は県内の障害者グループホームに入居を打診。だが「他の入居者に迷惑が掛かると困るので、見学のみにしてほしい」「他害行為をした人は受け入れられない」などと断られた。「空き部屋がない」という回答もあった。10カ所近くに当たり入居先が見つかるまで、男性は本来より1年ほど入院期間の延長を余儀なくされた。

同制度に基づき通院中だった別の対象者の場合も、地域での通所施設探しに苦労した。触法精神障害者であることを理由に拒む作業所もあった。通所先は何とか決まったが、支援関係者は「社会復帰につなげるためには、就労経験が積める通所施設の選択肢が多い方がいいのだが」と残念がる。

法務省の保護統計によると、2005年7月の心神喪失者等医療観察法の施行から12年12月までの間、同法で入院や通院治療の決定を受けたのは2142人。うち651人が制度に基づく治療期間を終了し、社会に復帰した。県内の対象者は104人で、うち39人が治療期間を終えた。自らの病気との向き合い方を身に付け、安定した生活を送っている人が多いという。

触法精神障害者の受け入れの難しさについて、県内の支援関係者の有志でつくる「県モデル活動研究会」は今年2月、医療機関と福祉事業所の職員を対象にアンケートを実施。23の機関・施設の28人から回答があり、「支援の実態を知らない」といった知識や情報不足のほか、「人的余裕がない」「他の利用者や近隣の理解を得るのが難しい」などが挙がった。

同研究会のメンバーで、田園調布学園大学の伊東秀幸教授(精神保健福祉)は「実態を知る機会が限られていることもあり、医療や福祉職の中でも『また事件を起こされる』といった偏見や理解不足がある」と指摘。「制度化された専門治療の医療機関に比べ、理解が進んでいない地域の精神保健福祉を充実させることが必要だ」と強調している。

□「誰でもなり得るのが精神疾患」支援者ら発信続ける

「早期に医療機関と結び付いていれば、事件を起こさなかっただろう人たち。決して『怖い人』ではない」。触法精神障害者を支援する専門職は、そう強調する。偏見や理解不足を解消しようと、県内の支援関係者有志でつくる「県モデル活動研究会」が昨年発足。今年7月にはホームページ(HP)を開設、表に出にくい関係者の声を紹介するなど情報発信を続けている。

日本更生保護協会のモデル事業として発足した同研究会は、県内の精神科病院や障害福祉サービス事業所、行政機関などで支援に当たる担当者、弁護士ら約40人で構成。精神科病院で支援に携わる精神保健福祉士の佐藤貴幸代表(37)は「まずは直接支援する人たちに実態を知ってもらいたい」と、医療や福祉サービスの従事者への啓発に力を入れる。

2月に実施した研修では、精神科病院や自立訓練施設の職員が実際の支援内容ややりがいを説明。さらに専門の入院治療を施す医療病棟を見学した。

今月には「教えて! 医療観察」と題したHPを開設。制度の目的や支援の仕組みといった基本的な情報とともに、精神科病院の担当者などの声を紹介している。今後、実際の治療の事例や、当事者家族の声もプライバシーに配慮しながら掲載する予定だ。

研究会はHPの開設を機に、一般市民の関心の高まりにも期待する。佐藤代表は、触法精神障害者について「被害者だけでなく、病気の影響で事件を起こした本人も苦しんでいる」と強調。「誰でもなり得るのが精神疾患で、周囲からの差別は余計に本人を苦しめる。悲しい事件を起こさないために、多くの人に理解を深めてもらいたい」と話している。HPのURLはhttp://iryoukansatsu.jp/

◆医療観察制度

重大事件を起こしたものの心神喪失や心神耗弱を理由に不起訴や無罪となった精神障害者の処遇を定めた制度。殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害の犯罪行為が対象。治療の開始や終了などの決定は裁判所が行い、社会復帰に向けて保護観察所が医療機関や自治体、保健所、障害福祉サービス事業者などと連携する。専門の治療を施す指定医療機関は県内で入院2カ所、通院26カ所ある。

【神奈川新聞】

 
 

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