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国家戦略の現場 初の脊髄損傷治療薬誕生か 医薬品開発の現在

社会 | 神奈川新聞 | 2014年7月24日(木) 13:00

神経再生の様子を映像でチェックする研究者=実験動物中央研究所
神経再生の様子を映像でチェックする研究者=実験動物中央研究所

ライフサイエンス(生命科学)特区の川崎臨海部・殿町3丁目地区では研究機関、企業の立地が加速し約7割の土地利用が決定、国家戦略特区の指定を契機に羽田空港と直結する連絡道路も整備される見通しになった。特区の骨格ができあがりつつあるが、肝心の革新的な医薬品、医療機器の開発の進捗はどうなっているのか。最新の成果を報告する。

実験動物中央研究所(実中研)が同地区で活動を開始したのは特区指定(2011年12月)に先立つ11年7月。それから3年、特区のプロジェクトも基礎研究を臨床応用につなげるトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)が本格化している。特に成果を挙げているのは慶応大医学部の岡野栄之教授(分子神経生物学、再生医学)らの研究グループとの共同研究だ。

6月、脊髄損傷(脊損)の治療薬の安全性・有効性を確認するための臨床試験(治験)を開始した。根治療法のない脊損では世界初の治療薬として期待されており、5年以内の実用化を目指している。

岡野教授は人工多能性幹細胞(iPS細胞)を活用した再生医療の研究で知られるが、今回の治験は脊損を負った直後の急性期の患者に特定のタンパク質を投与するもの。

事故やスポーツなどで神経が傷つき、運動や感覚に障害が起きる脊損は年間約5千人が受傷し、国内の患者数は約10万人に上るとされる。ほ乳類の中枢神経は一度傷つくと再生せず重度の後遺症が残るケースが多いにもかかわらず、有効な治療法は見つかっていない。

研究グループは、細胞の増殖や組織の再構築、血管新生を促す機能を持つタンパク質「肝細胞増殖因子(HGF)」の働きに着眼。定説を覆す医療技術の開発に着手した。これまでにマウスを使った動物実験でHGFの治療効果を確認。さらに、治験の実施へと道を開いたのは実中研と共同開発した、世界で初めて規格化された霊長類の実験動物「マーモセット」の存在だ。

■運動機能回復を確認

研究グループは、マーモセットに脊損モデルを再現。損傷部分にHGFを投与すると、神経細胞の再生を促し、8週間後、手でものをつかめるようになるなど運動機能の回復が確認された。人への応用では、運動機能などが失われた重症患者48人が対象。HGFを投与し、マーモセットの実験で実証された機能回復を検証する。

岡野教授は同時に、iPS細胞を活用した神経再生の研究も進めている。すでにiPS細胞から神経細胞を作製し、脊損状態のマーモセットに移植し、運動機能の回復に成功しており、脊髄を損傷してから2~4週間が経過した亜急性期の患者を対象にした臨床研究を3、4年後に実施する計画だ。

HGFと組み合わせた治療によって相乗効果が見込まれることから、将来的には慢性期の脊損の治療や脳梗塞による神経機能の回復も視野に入れている。

■体内に医療機能集約

ウイルス大のナノサイズ(1ナノメートルは100万分の1ミリ)の医療機器が人体内を自律的に巡回し、異常を発見すると、病巣に向かい薬剤をピンポイントで放出する-。そんな夢のナノマシンの開発に取り組む「ものづくりナノ医療イノベーションセンター」。研究開発施設は15年に殿町3丁目地区に完成するが、研究開発プロジェクトはすでに、革新的な研究開発を推進する国の「センター・オブ・イノベーション(COI)」に選出され始動している。

〈ナノマシンの実用化へ向け画期的な一里塚となる〉

研究リーダーを務める東京大学大学院の片岡一則教授(ナノバイオテクノロジー)は4月、世界トップの研究開発を目指す国の「最先端研究開発支援プログラム」(09~13年度)の集大成となる「体内病院」実現に弾みをつける研究成果を英科学誌に発表した。

最先端の医療技術として世界に発信したのが「光応答性ナノマシンの開発」。片岡教授は従来、ナノサイズのカプセル(ナノ粒子)に薬剤を内包しがん細胞などに輸送する「DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)」の実用化に大きな功績を残してきた。「ナノマシンは従来のナノ粒子の概念を超越した医療技術」。ナノ粒子はがん細胞などに薬剤を運ぶ機能に特化しているが、ナノマシンは疾患の検出、診断、治療というすべての医療機能を人体内に集約化する「究極の医療機器」という設計だ。

■化学応用を突破口に

常識を超えた構想が具体化へ進む突破口になったのが、光を感受すると物質が変化する光応答機能という化学の技術だった。ナノマシンには光に当たると活性化する光増感剤と、がんを抑制する特定のタンパク質を産出する遺伝子を取り込み、がんを発症したマウスの静脈から投与。体内で異物として排除されないよう特殊加工した膜に覆われているため、血流に乗って効率的に患部に到達する。

体外からがん細胞に光を照射すると、光増感剤が反応して酸化、がん細胞の膜を溶かして発がんのもとになっている細胞の核に集まり、遺伝子を送り込む。治療が必要な細胞だけを選択して遺伝子を届けるため、健常な細胞への副作用はない。光選択的遺伝子導入の実証は世界で初めて。

ものづくりナノ医療イノベーションセンターでは、一つ屋根の下に21の研究機関、大学、企業が結集。片岡教授は「ナノ粒子はいわば第1世代のナノマシンで、すでに実用化の手前まで進んでいる。イノベーションセンターでは、多様な研究機関、企業のノウハウ、技術を結集し、オープンな研究環境の下、ナノマシンの開発を加速させる」としている。

プロジェクトでは、COIの期間中にがんをはじめ脳神経系疾患など、高齢化によって増加している病気を対象に新薬開発、体内病院の実現を目指している。

【神奈川新聞】

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