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弁護士・岡田尚さん
時代の正体〈6〉この国の大きな分岐点 

社会 | 神奈川新聞 | 2014年7月23日(水) 11:59

 安倍内閣が閣議決定により踏み切った集団的自衛権の行使容認。海外での戦争に道を開く平和主義の大転換に憲法学者、弁護士がこぞって「立憲主義の破壊」「憲法9条違反」と批判する。そうした中、県内を含めた全国で閣議決定の違憲訴訟に向けた取り組みが始まった。違憲判決を勝ち取り、政権の「暴走」に歯止めをかけられるか。訴訟の手法、課題をまとめた。

 12日、自衛官いじめ自殺をめぐる「たちかぜ訴訟」=注1=の報告集会が横浜市内で開かれた。横浜弁護士会所属、原告全面勝訴を勝ち取った弁護団長の岡田尚弁護士(69)は「集団的自衛権についても、違憲訴訟に向けた取り組みをしなければならない」と力強く語った。集会には北海道、静岡、愛知、宮崎県などから弁護士や自衛官の家族らが出席し、連携を確認した。

 全国での動きは4月にさかのぼる。2004年に始まった自衛隊イラク派兵差し止め訴訟の全国弁護団連絡会議が、集団的自衛権の行使容認についても全国で違憲訴訟の準備を進めることを発表。11地裁12訴訟のうち、名古屋高裁で違憲判決を勝ち取った原告団・弁護団は「名古屋高裁判決で具体的権利と認められた平和的生存権=注2=を行使する」と決意を述べた。

 今月上旬には、三重県の男性が閣議決定の無効確認を求めて東京地裁に提訴したほか、同県松阪市の山中光茂市長が賛同者を募って集団提訴を目指すことを表明するなど、全国で提訴の動きが始まっている。

 違憲判決を得るには高いハードルがあることも事実だ。提訴の方法によっては、原告適格=注3=がないとして、審査に入る前に却下判決、門前払いになることも考えられる。審査に入っても「高度の政治性を有する」問題は「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは司法審査権の範囲外」という「統治行為論」=注4=が持ち出される可能性もある。裁判所が閣議決定を追認する可能性も否定できない。

 提訴について名古屋訴訟弁護団は「あらゆる種類、あらゆるタイミングで検討する」としている。岡田弁護士によると、大きく分けて三つのタイプが考えられるという。

 第1は自衛官やその家族による訴訟。集団的自衛権行使の結果と考えられる命令を拒否して処分を受けた自衛官が処分の適否を争う。または、武力行使に伴い死傷した場合の公務災害補償、国家賠償の請求などだ。

 提訴は事件が起こってからになるが、相談窓口の整備など訴訟の準備自体が「そうした状況をおこさせない抑止効果を持つ」と岡田弁護士。自衛官の命と人権を守るためには必須の取り組み、との認識だ。

 第2は自治体の支出や契約などに対し、住民が起こす住民監査請求、住民訴訟。集団的自衛権を行使するとなれば自衛隊は明白に9条2項違反=注5=の存在になるとして、違憲な組織である自衛隊への支出や契約は「違法になる」との訴えだ。

 来年の通常国会で行うとしている自衛隊法など関連法の改正後、自治体の支出などが行われてから提訴に踏み切ることが考えられるという。

 第3は市民が平和的生存権を侵害されたとして、自衛隊法など関連法の改正の無効や自衛隊の海外派兵差し止め、損害賠償などを求めて訴える方法だ。イラク派兵差し止め訴訟に似た訴訟で、提訴時期は関連法の改正直後から派兵、武力行使の際など、さまざまなタイミングが考えられるとする。

 課題は平和的生存権を裁判所がどう評価するか。イラク派兵差し止め訴訟では、名古屋高裁が平和的生存権の具体的権利性を認め、合憲性の審理に入ったが、その他の判決のほとんどは具体的な権利ではないとしている。

 いずれのケースもハードルは低くはないが、岡田弁護士は「裁判は『勝つことを目指す』が、『勝てるからやる』わけではない。この国と国民にとって大きな分岐点であり、そのことを広く知ってもらう観点から積極的に考えたい」と話している。

◆たちかぜ訴訟弁護団長の岡田尚弁護士に集団的自衛権違憲訴訟の意義と展望を聞いた。

-たちかぜ訴訟から集団的自衛権を考えると。
「今でも自衛官の自殺率は一般公務員の1.5倍から2倍。毎年多くの自殺者を出している。海外で戦うとなれば訓練も違ってくる。上官の意識も『戦場へ行くんだ。弱気でどうする』となる。いじめの構造が強まり、人権侵害、自殺がさらに増える可能性がある」

-集団的自衛権の行使が考えられる海外派遣に対して、派遣を拒否する自衛官が出る可能性は。
「イラク派遣でもイラクに行かない選択をした自衛官がいた。増える可能性がある。今の憲法の下なら、自衛隊は軍隊でない以上、拒否できるはずだ。自衛官の人権を保障する仕組みを考えていきたい」

-相談を受ける体制もその一つ。
「たちかぜ訴訟では報道のたびに、自衛官からいじめの相談の電話が来た。フットワーク軽く相談に乗ることができれば、人権侵害に対する相当な抑止効果になる。集団的自衛権の行使では、命令を拒否しても大丈夫だという認識を持ってもらうようにしたい。横浜弁護士会に電話相談ホットラインを提案したい」

-閣議決定がなされ、違憲訴訟も起こされ始めた。今後の展望は。
「提訴した人の気持ちは分かるが、閣議決定にはまだ法的具体的拘束力がない。現段階で提訴しても(不利益が生じない以上)法律的にハードルが高い。自衛隊法など関連法の改正が提訴の最初のタイミングになる。裁判をやるなら大きな運動を形作らなければならない。拙速はいけない。時間をかけ、県内を含め全都道府県で原告を大量に集める取り組みをしたうえで提訴する」

-訴訟の原告になることのほか、市民に期待したいことは。
「自衛隊は高校3年生にリクルート活動をしている。身近にいる高校3年生には『本当に殺し殺される組織に入りますか。海外の戦場に行くことになるかもしれませんよ』と問い掛けてほしい」

注1=たちかぜ訴訟 いじめを苦に自殺した海上自衛隊護衛艦「たちかぜ」乗組員の1等海士の遺族が国などに損害賠償を求めた訴訟。今年4月の東京高裁判決は「上司が適切に調査、指導をしていれば自殺は予測可能で、回避できた」と指摘し、約7300万円の支払いを命じた。海自による調査記録文書の隠蔽(いんぺい)があったことも認め、自殺に対する賠償とは別に20万円の慰謝料も命じた。

注2=平和的生存権 平和のうちに生きる権利として日本国憲法に示されている基本的人権の一つで、前文(「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」)や9条(戦争の放棄)、13条(幸福追求権)などから導き出されるとされる。従来「抽象的権利」とされてきたが、自衛隊イラク派兵を違憲とした2008年4月の名古屋高裁判決で明確に具体的権利性が認められた。

注3=原告適格 日本国憲法の違憲審査制では、裁判で救済され得る具体的な権利、法律上の利益を持っていなければ訴える資格(原告適格)がないとして、違憲合憲の審理に入らず却下判決となる。閣議決定には法的拘束力がないため、現段階の提訴では具体的な権利、利益の侵害はあり得ないとして門前払いになる可能性が高いとされる。

注4=統治行為論 国家統治の基本に関する国家機関の行為のうち、高度な政治性を有するものについては司法審査の対象から除外すべきとする理論。駐留米軍の合憲性が争われた砂川事件で1959年12月の最高裁判決が日米安全保障条約の合憲性の判断を避けるのに、この理論を用いた。

注5=自衛隊の9条2項違反 従来の政府見解では、自衛隊は自国が攻撃された際、個別的自衛権を行使して反撃するための必要最小限度の実力組織であり、戦力不保持を規定する9条2項に照らしても合憲であるとしてきた。自国が攻撃されていないにもかかわらず、集団的自衛権を発動して武力攻撃することが可能になれば、自衛隊は他国と同じ「普通の軍隊」、つまり「戦力」となり、9条2項に抵触するとの指摘が憲法学者らからなされている。

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