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時代の正体〈4〉米軍基地を問う(3)機能の欠陥許す安保条約

社会 | 神奈川新聞 | 2014年7月19日(土) 00:40

15日に初飛来した米海軍厚木基地から飛び立つオスプレイにカメラを向ける報道陣や市民ら
15日に初飛来した米海軍厚木基地から飛び立つオスプレイにカメラを向ける報道陣や市民ら

 米海兵隊の新型輸送機MV22オスプレイが18日、米海軍厚木基地(大和、綾瀬市)に再び姿を現す。15日の初飛来から中2日、市街地上空での飛行の常態化を早くも予感させる。米軍基地の地元自治体の議員や市民でつくる基地監視団体「リムピース」の編集長、頼(らい)和太郎さん(65)は「オスプレ専門家が見るオスプレイの危険性イのリスクは従来の軍用機とは次元が違う」と警鐘を鳴らす。では、なぜ危険なのか。

初飛行の実態


 オスプレイの沖縄配備を前にした2012年9月、日米合同委員会で交わされた合意事項には、こう記されている。

 〈MV22は、通常、ほとんどの時間を固定翼モードで飛行する。運用上必要な場合を除き、MV22は、通常、米軍の施設及び区域内においてのみ垂直離着陸モードで飛行し、転換モードでの飛行時間をできる限り限定する〉

 飛行中に両翼のプロペラの角度を変えることでヘリコプターのようにも、固定機のようにも飛ぶことができるオスプレイ。固定翼モードとは、プロペラの回転軸を水平にして飛んでいる状態で、垂直離着陸モード(ヘリモード)は85度以上、転換モードは1~84度になっていることを指す。

 15日、厚木基地。北側の市街地上空に姿を現した機影に頼さんは目を凝らしていた。

 プロペラは上を向いている。日米合意で「できる限り」避けられるはずの転換モードだった。

 監視活動で訪れる沖縄でも目撃されている、日米合意の趣旨に反する飛行。頼さんは言う。

 「国同士の約束事はあっけなく破られていた。米軍は日本の国民がオスプレイを不安視しているのを分かっているはずなのに、東日本最初の飛来でも配慮は全くみられない。今回の離着陸には、米軍の傲慢(ごうまん)さを読み取るべきで、黙っていたら、ますます危険な運用になる」

構造上の欠陥


 ヘリモードでの飛行は、なぜ米軍の施設とその区域内に限られるのか。理由は、頼さんが「最大の問題点」とみる緊急時の墜落回避機能の脆弱(ぜいじゃく)さにある。

 ヘリコプターであれば、エンジンが故障で停止しても、降下時の風力でプロペラを回し、不時着するオートローテーションと呼ばれる機能がある。

 防衛省が作製したパンフレットでは、オスプレイもその機能を活用するとしているが、頼さんは「現行の米軍ヘリ『CH46』と比較して、オスプレイは重量が倍以上あり、プロペラが短く揚力が劣る。どちらが危険かは明白」と指摘する。

 メーカーのボーイング社は緊急時には「固定翼モードで滑空して着陸することができる」と説明しているが、「転換モードで飛んでいた場合、固定翼モードに切り替える時間的な余裕はないはずだ」

 固定翼モードでの着陸もあくまでも非常事態を想定したもので、プロペラが水平のままでは滑走路に接触するため、通常はできない。直ちにモードが切り替えられない以上、着陸前は必ず転換モードで飛ぶことになる。沖縄・普天間飛行場では着陸の8キロ手前から転換モードで飛んでいると米軍は説明している。

 頼さんは〈転換モードでの飛行時間をできる限り限定する〉とした合意自体、実態を無視した「リップサービス」とみる。「少なくとも過去7回の墜落事故では、ヘリモードでのものが3件、転換モードが4件。実際に危険かどうかは別として、こうした事実を受け止める必要がある」

自治体の総力


 頼さんが強調するのは、米下院の政府直属の研究所でオスプレイの分析・評論に当たった専門家アーサー・レックス・リボロ氏の指摘だ。

 〈民間の輸送機であれば連邦航空局の基本的な耐空性の要求を満たせない、ということの重大性はほとんど無視されている〉

 米国内からも鳴らされる警鐘は、オートローテーションの能力不足を問題視したもので、頼さんは「日本の航空法の基準でも耐空性の基準を満たしておらず、安全な飛行を確保するために必要な耐空証明が取れない可能性が大きい」

 ではなぜ、オスプレイの飛行が許されるのか。「日米安全保障条約があるからだ。米軍基地が市街地に存在するから、必然として日本の市街地の上を飛ぶ。基準を満たしていない可能性のあるオスプレイが飛べるのは、日米地位協定や関連の特例法で日本の法律の適用除外となっているからだ」

 では、住民の安全を守るべき自治体は、安全保障という国策を前に指をくわえているしかないのか。

 頼さんは、沖縄の例を挙げる。市町村が県にオスプレイの情報を寄せる仕組みがあり、発見場所や飛行していた方角、飛行モード、基数、「バケツをつり下げていた」といった報告を寄せ合い、県がとりまとめている。頼さんは「地域ぐるみ、官民を挙げた総力戦だ」と強調する。

 「どこを飛んでいるかといった目撃から、日米合意に反する違法な飛行がないかまで、すべての自治体の職員だけでなく、住民を巻き込んで情報を集約、蓄積する。それが、米軍側に『常に見張られている』という圧力になり、日米合意を守らせる力になる。それを続けていくことが厚木基地の『使いにくさ』にもつながっていく」

◆オスプレイ 米軍の新型主力兵員輸送機。主翼両端のプロペラの角度を変えることでヘリコプターのような垂直離着陸と、固定翼機並みの速度での長距離飛行ができる。開発段階から墜落事故が相次ぎ、安全性を懸念する声が根強い。米軍は沖縄県の普天間飛行場に2012年10月に海兵隊のMV22を配備し、13年9月までに12機を追加配備した。政府は18年度までの中期防衛力整備計画で、自衛隊に17機を導入すると明記、小野寺五典防衛相が購入費を15年度予算の概算要求に計上する考えを示している。


オスプレイの飛行モードについて説明する防衛省作製のパンフレット
オスプレイの飛行モードについて説明する防衛省作製のパンフレット
 
 

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