世界のウナギ資源を守るために、踏み込んだ判断を下したと評価したい。国際自然保護連合(IUCN)がこのほど発表した「レッドリスト」の最新版で、ニホンウナギが「近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種」(絶滅危惧1B類)と判定された。
3区分の絶滅危惧種のうち、リスクの高さは2番目だ。日本の伝統的な食文化であるウナギが、そこまで切迫した状況にあることを、まず認識する必要がある。
実際、漁獲量は激減している。IUCNによると、養殖に使われる稚魚のシラスウナギは過去30年間で90%以上減った。複数の要因が絡み合ってのことだが、主な原因は大量消費と、そのための乱獲だ。
各国政府に保護の必要性を訴えるIUCNのレッドリストに法的拘束力はない。だが、ワシントン条約で国際取引規制を検討する有力な判断材料となるため、ニホンウナギの取引も規制される可能性が高い。
今回の絶滅危惧種指定を「うなぎが安く食べられなくなる」と嘆くのではなく、本来のうなぎ食文化を取り戻す契機にしたい。
世界のウナギの7割を消費する日本にとって、忘れてはならない過去がある。絶滅危惧種の分類では最も上の「絶滅危惧1A類」に指定されているヨーロッパウナギ。中国から日本へ輸入され、ファストフード店やスーパーで安く販売されていた大半がこの種で、行きすぎた消費行動が絶滅の危機に向かわせた。
ヨーロッパウナギの代替として需要が高まっている東南アジア生息のバイカラは、今回のレッドリストで「準絶滅危惧種」へ格上げされた。乱獲、規制、新たな種の乱獲、という過ちを繰り返してはならない。
以前の「ワンコイン」時代に比べれば価格は上がったものの、ファストフード店では今も千円未満でうな丼が販売されている。「格安」という近視眼的な食文化と消費行動は、もう終わりにしてはどうだろう。
うなぎ料理は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された「和食」の代表格でもある。時間と手間のかかったうなぎを味わいながら食す。スローフードとしての価値を取り戻したい。
政府は、漁獲規制など資源保護に向け積極的な対策を早急に講じるべきだ。「食べ過ぎ」で種を絶滅させる愚は決して犯してはならない。
【神奈川新聞】