厚生労働省の調査では、65歳以上の高齢者のうち、認知症の人は推計15%に上り、2012年時点で約462万人を数える。
認知症の高齢者が急激に増加する中、徘徊(はいかい)、行方不明者に関する報道が相次いでいる。
一連の問題は、超高齢社会を迎え、家族や限られた専門職だけでは対応しきれない現実を突き付けている。社会全体で積極的に対策を講じなければならない課題だ。
認知症の人と家族を孤立させないよう地域で見守り、支え合う仕組みを形づくる必要がある。また、それぞれが認知症に対する理解を深めることも求められる。
認知症で徘徊中の91歳男性が死亡した電車事故をめぐり、名古屋高裁は4月、遺族に対し鉄道会社への賠償を命じた。訴訟は、介護者にどこまで責任を負わせるのかという議論を招いた。
日本認知症学会などは高裁判決の前に、家族の責任を認めた一審判決について、「介護の現状にそぐわない」との声明を出している。
また、身元不明のまま介護施設で長年生活している高齢者の問題も報道などでクローズアップされた。これまで知られていなかった実態が浮かび上がりつつある。
警察庁は一昨年から、行方不明の届け出を受理した件数のうち、認知症者数を公表し始めた。13年は1万322人を数える。
外に出て歩きたいという気持ちを否定し、屋内に閉じ込めたのでは認知症の人のストレスは増すだろう。戸惑い、不安を感じている当人を叱ったりすれば、ますます困惑することになる。一方で、一瞬たりとも目を離さない対応を求めれば、介護する側の身が持たない。
国も対策として、13年度から「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」をスタートさせた。
プランでは、介護サービスを担う人材育成のほか、地域での日常生活の支援強化にも取り組む。
厚労省が05年から始め、養成講座で基礎知識などを学んだ「認知症サポーター」を12年度末の350万人から17年度末には600万人まで増やす目標を掲げている。
認知症への理解を深めるのはもちろん、認知症の人と日常的に交流できる場づくりも必要だろう。顔の見える関係の中で、遠慮なく周囲に支援を求められる地域を築きたい。
【神奈川新聞】