原発の早期再稼働を側面支援し、原発推進を実現しやすい組織を作りたいのか、という疑念を拭えない。
内閣法制局長官やNHK経営委員会委員、日銀総裁ら、国会同意人事などで自身と考え方が近い人物を影響力がある職に据えたとして批判が絶えない安倍政権。今回も同様の批判が噴出するのではないか。
政府は、原子力規制委員会委員に田中知東京大大学院教授と石渡明東北大教授を新たに充てる人事案を衆参両院に提示した。民主党、日本維新の会は反対する方針だ。
田中氏は日本原子力学会元会長。核燃料サイクルや放射性廃棄物が専門で、経産省の審議会委員などを多く務め、原発推進の政策に関わってきた当事者といえる。
入れ替わりに退く島崎邦彦委員長代理は、地震学が専門の研究者。日本原子力発電敦賀原発2号機の原子炉直下の断層を活断層と認定するなど、早期再稼働を目指す電力会社に一貫して厳しく対応してきた。
新体制案には、政府が原発再稼働を進める方針を盛り込み閣議決定した「エネルギー基本計画」をスムーズに進める組織づくりを意識している印象を否定できない。脱原発を目指す市民団体から「規制委の批判的機能が欠ける。旧原子力安全・保安院時代に大幅に後退する」と不安の声が上がるのは当然といえよう。
規制委の発足は2012年9月。前年3月の東京電力福島第1原発事故後、「安全神話」を振りまきながら原発を推進してきた「原子力ムラ」への批判が社会的に巻き起こった。そこで利権とは一線を画し、信頼を得られる規制組織として誕生したのが規制委だった。
その意味で、島崎委員は国民が規制委に求める役割を愚直に貫いてきたといえよう。だが、自民党の一部からは交代を求める声が上がり、今回、田中氏が選ばれた。
同氏は、東京電力の関連団体から11年度に50万円以上の報酬を受け取っていたことが分かっている。菅義偉官房長官は「独立性をもって、中立、公正な立場から職務を遂行できるベストの人事」と強調するが、信用に足る説明ではない。
今回の人事は恣意的な規制委の骨抜きと捉えられても仕方あるまい。再び「原子力ムラ」が復権し、強引に原発政策を進めるのではないか。政府には責任をもって国民の懸念を払拭する責務がある。
【神奈川新聞】