心臓は体のあらゆる組織に血液を送り届けるポンプ。心筋梗塞、高血圧、心筋症などの循環器疾患により機能が低下すると十分な血液を送り届けられなくなる。心不全と呼ばれ、日常生活が制限されるのに加え、生命予後(病気回復の見込み)も悪い。患者数は、高齢化に伴い著しく増加している。
こうした課題の解決へ、藤田孝之講師の研究グループは、より安全で効果の高い循環器疾患の治療法開発を進めている。
心不全に対する長期的な治療としては、過度な心臓の働きを抑えることが最も有効な方法の一つだ。心筋細胞表面にあるβカテコラミン受容体は、交感神経活動などにより増加するノルアドレナリンなどの心臓の働きを促進する刺激を受け取り、細胞内に伝達する。この受容体の機能を抑制する遮断薬(β遮断薬)が心不全治療薬として広く用いられており、心不全の進行を抑え、生命予後を改善する。
藤田講師は「ただし、注意深い使用を怠ると逆に心不全を悪化させることや、ぜんそくなどの呼吸器疾患や糖尿病に悪影響を及ぼすことなどが副作用としてしばしば問題となる」と指摘。特に高齢者や他の疾患を発症している患者には「投与を控えざるを得ないことがあり、心不全の治療が不十分となる」という。
β遮断薬の副作用の原因の一つは、ターゲットであるβカテコラミン受容体が心臓以外の多くの組織でも機能していることにある。研究グループは、この受容体と同様に心臓の働きに作用する分子群の中で、心臓以外の組織での働きが少ない分子である心臓型アデニル酸シクラーゼ(心臓型AC)に着目。その機能を抑制する阻害薬(心臓型AC阻害薬)について、より副作用の少ない循環器疾患治療薬としての有用性を検討している。
研究グループは既に心臓型AC阻害薬にはβ遮断薬と同様に心不全、不整脈の抑制効果があることや、β遮断薬の副作用である心機能の低下がほとんど見られないことを動物実験において確認。臨床研究でも不整脈予防作用を示す所見が認められている。
新たな阻害薬の開発によって、循環器疾患に対するより安全で有効な治療をより多くの人が受けることが可能となる。
(医学研究科循環制御医学)
【神奈川新聞】