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問われる教育委員会〈上〉 地方教育の「改革」 課題は

社会 | 神奈川新聞 | 2014年5月20日(火) 13:30

改正教育委員会制度の概要
改正教育委員会制度の概要

教育委員会の在り方を見直す地方教育行政法改正案が20日、衆院本会議で可決される見通しだ。教育長と教育委員長を統合した新たな「教育長」ポストが設置されるのがポイントだ。政治的中立性やチェック機能が損なわれることへの懸念をよそに、安倍晋三首相は「責任の所在があいまいな現行制度を抜本的に見直す」と意欲を示してきた。戦後、教育行政をつかさどってきた教育委員会が迎えた転換点。「改革」から浮かび上がる課題を検証する。

「首長選挙のたびに子どもが翻弄されるのか」。市民団体「横浜教科書採択連絡会」の佐藤満喜子さんは、そう声を落とした。今月16日、衆院文部科学委員会。地方教育行政法改正案が与党と生活の党などの賛成多数で可決された。教育委員会制度改革の衆院通過が、決定的になった瞬間だった。

発端は2011年に大津市で起きた中学2年生の自殺問題。市教委は調査を学校に丸投げしたり、非常勤の教育委員にすぐに事案を報告しなかったりと、その対応が批判を招いた。

「責任の所在があいまい」「現行では迅速な対応ができない」

そうした声を受け、改革に向けた議論は加速していった。

改正案では、非常勤の教育委員長と常勤の教育長を統合し、新しい常勤の「教育長」を首長が任命する。首長主宰の総合教育会議も全自治体に設置し、教育大綱や重点施策、いじめ自殺などへの対応を協議する。総じて首長や教育長の権限を強める内容だ。

一方、教育委員会は引き続き教育行政に最終責任を持つ「執行機関」に位置付けられる。首長による政治的な介入の懸念に対し、下村博文文部科学相は「教育委員会の職務権限は変更しない」と述べ、教科書採択や教職員人事が専権事項であることに変わりはないことを強調する。

だが、佐藤さんは素直にうなずくことができない。脳裏にはこれまで見詰めてきた横浜市教委の姿があった。

□異例の採択

横浜市教委が、市内18区のうち8区の市立中学校で自由社が発行した歴史教科書を採択したのは2009年8月のことだった。

異例だったのは、その手続きだ。

採択は歴史だけが他教科と異なる手法がとられた。「突然、教育委員長が『無記名投票にします』と言い、決まった。行政の透明性の観点からも問題」。傍聴していた佐藤さんはあっけに取られた。

自由社の教科書は、戦後の歴史教育を「自虐史観」と批判し、愛国心を養うことをうたう「新しい歴史教科書をつくる会」の主導でつくられたものだった。歴史認識をめぐって異論のある教科書を選ぶにあたっての“配慮”を、佐藤さんは感じた。

11年8月の採択では中学校の歴史と公民について、やはり「つくる会」系の育鵬社の教科書を選んだ。校長や有識者、保護者らでつくる教科書取扱審議会の評価は低く、現場や地域の意見を考慮しない採択は、やはり異例といえた。

同年9月、育鵬社の教科書執筆者らでつくる「教科書改善の会」が発表したところによると、同社の歴史と公民の教科書を使う公立中学校や特別支援学校は11都府県の計388校とわずかにとどまったが、そのうち横浜市が149校という突出した結果となった。

佐藤さんが「現制度でも政治介入が行われている」と語るのは、採択の背景に09年8月まで市長だった中田宏氏の存在をみているからだ。「『日本の歴史』を肯定できなかったら自信をもつことなど不可能」とホームページで記述し、教育観の一端を披歴していた。議会の同意を得たとはいえ、異例の採択を進めた教育委員長を教育委員に再任命したのは市長の中田氏だった。

□民意の反映

教育委員会制度ができたのは戦後間もない1948年。戦前・戦中に国によって推し進められた軍国主義教育の反省に立ったものだ。政治的中立性を保つことは教育方針の継続性や安定性、地域住民の意向を反映させるためにも欠かせない。

今回の改革では首長や教育長の権限が強まる。佐藤さんは「リスクはやはり、政権や首長によって教育が変わること。今以上にそうなりやすくなるのではないか」と懸念を強める。首長の背後には支持者がいる。有力な支持者は首長に与える影響も大きい。「首長が選挙の有力な支持者に迎合すること。首長を応援した業者が学校というマーケットに入り込むなど、利権も生まれかねない」

子どもたちが受けた教育は取り戻せない。「かつて行われていた教育委員の公選制に戻すことは無理としても、最終的に民意を反映するのは首長を通してでなく、私たち市民自身であるべき」。現行でもその余地がある政治介入への問題意識は今回の改革からはうかがえず、介入へのためらいはむしろ弱まっているように感じられてならない。

【教育委員会制度改革案の骨子】

・教育委員長と教育長を一本化し、新たな責任者として教育長が教育委員会を代表する

・首長が直接教育長の任命、罷免を行う

・教育長の任期は現行の4年から3年とする

・首長は、首長と教育委員会で構成する総合教育会議を設け、招集する

・首長は総合教育会議で、教育委員会と協議の上で教育振興施策の大綱を策定。重点施策や緊急事態への措置も協議する。

・いじめ自殺の再発防止など、緊急の必要があれば文部科学相が教育委員会に対応を指示できる

◆教育委員会

地方教育行政法に基づき、都道府県と市町村に設置される行政委員会。原則として5人で構成される。教育の中立性を確保するため、首長は教育行政の直接的な決定権を持たず、合議体としての教委が教育行政の最終的な権限を持つ「執行機関」に位置付けられている。現在の制度は、首長が議会の同意を得て教育委員を選任し、委員の互選により教育委員長を選ぶ仕組み。事務局のトップの教育長も委員を務めるが、委員長との兼任はできない。

【神奈川新聞】


中学校の歴史教科書に育鵬社版を採択した横浜市教育委員会定例会 =2011年8月4日
中学校の歴史教科書に育鵬社版を採択した横浜市教育委員会定例会 =2011年8月4日
 
 

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