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高次脳機能障害者 支援し10年 横浜・クラブハウスすてっぷなな(上)

社会 | 神奈川新聞 | 2014年5月17日(土) 10:10

2004年に首都圏初の高次脳機能障害者向け地域作業所として開設された地域活動支援センター「クラブハウスすてっぷなな」(横浜市都筑区)が10周年を迎えた。脳の損傷で記憶力や注意力、社会的行動などに障害がある53人が利用。障害を熟知したスタッフの訓練と指導を受け、就職や復学、職能訓練、地域生活と新たな段階に進んでいった。「なな」の取り組みとリハビリに励む当事者の姿を紹介する。

■自らの症状知り前進

横浜市営地下鉄仲町台駅近くのビル1階。ガラス張りで開放感のある「なな」に、この日は利用者5人が集まった。午前10時、利用者の1人が司会になり、打ち合わせを行った後、郵便物の封入作業が始まった。

1月から週2回通っている上村武さん(22)=仮名=は、机の上に積まれた2種類の資料を1組に束ねる作業を担当。左半身にまひがあるため、右手だけを黙々と動かしていく。「スタッフは優しいし、楽しく過ごしています」と笑顔を見せた。

18歳の時、オートバイの運転中に自動車に衝突され脳外傷を負った。当初は立つこともできず、入院は断続的に1年に及んだ。リハビリを3年間続けた結果、歩けるまでに回復したが、左半身のまひのほか、高次脳機能障害が残った。物事を計画的に進める遂行機能や情報処理能力、注意力の低下が見られ、「主治医から社会復帰を目指すリハビリも始めた方がいいと言われ、『なな』に通うことにしました」と振り返る。

自宅で両親に見守られ、病院以外に社会との接点がなかったという上村さんは「体力がなく疲れやすい。注意がほかにそれて集中できない。作業をやっていく中で、治さなくてはいけない点があることに気付きました。家にいる時は分かりませんでした」と語る。漢字をかなり忘れているなど記憶力の問題も分かった。同じ障害のある仲間と作業することやスタッフから指摘を受けることで、自分の障害を認識することができた。

この4カ月間、犬用クッキー作りや事務作業のほか、「なな」に寄せられた不用品の販売も担当してきた。スタッフの助けを借りながら、値段付けなどをパソコンで行う。「クッキー作りは苦手ですが、不用品販売は面白い。こんなものが売れるのかと驚きがあります」。何より作業を続けることで「集中力が付いてきました。頭がさえてきた感じがします」と、自らの成長を実感している。

統括所長の野々垣睦美さん(39)は「自分の障害に気付いてもらうことで、次の段階に進むことができます。訓練によって、上村さんの可能性、選択肢を広げていきたい」と語る。

上村さんは「通所前は就職して社会参加したいと漠然と考えていました。今は自分と同じように病気や事故で障害を負った人の役に立てる仕事ができればと考えています」。新たなステップに向け、訓練が続いている。

■就労、復学などに成果

「なな」は県内の脳外傷者の家族会、NPO法人「脳外傷友の会ナナ」(横浜市青葉区、大塚由美子理事長)が中心となった運営委員会が2004年4月に開設した。40歳前後以下の若い障害者が就労、復学など次の段階に進めるよう訓練、指導することを目標に置いた。

開設当初、高次脳機能障害はほとんど知られていなかった。障害そのものを知ってもらうことから活動が始まったという。同年5月に厚生労働省が診断基準などを定めたことで自治体の対応なども徐々に進んでいった。

10年間の利用者は53人。原因の約7割が交通事故などによる脳外傷、約2割が脳出血などの脳血管障害で、残りは脳腫瘍、低酸素脳症、脳炎。利用開始時の平均年齢は28・9歳で、平均在籍期間は約2年半だ。

41人の退所者のうち8人が復職、就職、復学を果たし、7人が職業能力開発校などに進んだ。福祉的就労を始めたのは10人、医療機関に移ったのが5人、転居などが11人だった。

高次脳機能障害は本人に障害の自覚がなかったり、混乱状態にあったりするケースが多い。訓練では安心できる環境を提供することが重要になる。障害への自覚を促しながら、メモ帳の利用など障害をカバーする手段や感情の抑制といった自己をコントロールするすべを身に付けてもらうよう指導する。

作業は犬用クッキー作り、企業発注作業、宅配便の発送作業、パソコン入力、作文や計算などで、クッキー販売などの地域交流やレクリエーションも大切な訓練の場になる。

10年度には家族会が運営主体になり、横浜市の「地域活動支援センター障害者地域作業所型」に位置付けられた。市の業務委託を受け「自立生活アシスタント事業(高次脳機能障害)」も同年度から始め、活動の幅を広げている。

作業療法士などの常勤職員3人、非常勤職員3人、嘱託医1人、ボランティアで運営され、今年4月段階の利用者は12人となっている。

◆高次脳機能障害 交通事故などの脳外傷や脳卒中などによる脳の損傷で、記憶力、注意力、遂行機能、社会的行動などに障害が起き、日常生活や社会生活に制約のある状態。損傷した脳の場所、損傷の程度により症状は一人一人異なる。新しい出来事を覚えられない、二つのことを同時に行うと混乱する、ぼんやりしてミスが多い、自分で計画を立てて物事を実行できない、感情をコントロールできない、暴力を振るう、失語症、失認症などが主な症状。本人の自覚がないケースが多く、周囲からも障害と分かりにくい問題がある。救急医療の進歩によって増加しており、障害者数は国の調査(2001年度から5年間)で全国約27万人、東京都調査(08年)では都内で約5万人、全国で約50万人と推計されている。

【神奈川新聞】

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