もう一度、風を感じながら旅をしたい。車いす利用者のそんな願いから一台のバリアフリーバイクが誕生した。二輪車の販売・製作を手掛ける片山技研(大和市)が開発したもので、車いすに乗ったまま運転でき、一人で乗り降りできる三輪オートバイ。18日、開発者の一人で車いすを利用する同社社員の島津徹也さん(53)=横浜市神奈川区=が耐久テストを兼ねた一人旅に出る。日本海を望む石川県まで往復約1100キロ、手にした自由を体で満喫する旅となる。
市販のスクーターをベースに車いすごと乗り込めるボックス型の運転席とハンドルを取り付けた。
車いすを包み込むイメージから愛称は「コアラ」。こだわったのは運転席後部のスロープだ。「レバー操作で開閉し、乗り降りまで一人でできる」と島津さん。一般的な福祉車両は車いすから運転席へ乗り移るタイプが多く、手間が掛かったり、手助けが必要だったりする。
島津さんが車いす生活になったのは26歳の時。バイクを運転中、ひき逃げ事故に遭った。両足の神経を損傷し、16歳から乗っていたバイクの免許は返納した。
車体と一体となり、自在に風を切る爽快感をもう一度-。捨て切れぬ思いに光が差し込んだのは、同社代表の片山秋五さん(49)=同市旭区=との出会いだった。
島津さんは数年前、普通自動車免許で運転できる「トライク」と呼ばれる三輪バイクの存在を知り、自宅で自作を試みていた。IT企業に勤めながらで、やがて行き詰まった。ハローワークで目に留まった片山技研の求人。調べるとトライクの製造を手掛けていた。
昨夏、面接で訪問すると片山さんも高校時代にオートバイで事故に遭い、左足に大けがを負った経験があった。
「多くの福祉車両がそうであるように、誰かの手が必要な状況にとどまっていては本当の福祉とは呼べない。一人で家から出られて、帰れる環境をつくればいい」
採用は即決され、プロジェクトが立ち上がった。完成をみたのは今年2月のことだ。
今回の旅で向かう石川県七尾市は、かつて通った旧国立七尾海員学校(現在は閉校)があったところだ。「当時の思い出をもう一度味わえる」と楽しみにする。
2泊3日で山梨、長野、富山各県の一般道を走る。安房峠など山越えの道もあり、性能を試すまたとない機会になる。「車いすのまま走れる車両はほとんどない。安心な乗り物だと認識され、ユーザーの選択肢の一つになれば」と島津さん。
厚生労働省から福祉車両として認証され、自治体の購入助成金を受けられる場合もある。1台100万円程度での販売を考えており、片山さんは「バイクを使った仕事などにも活用してもらい、障害者の雇用拡大にもつながれば」と話している。
【神奈川新聞】