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特定秘密保護法を問う(20)「必要性なく最悪のもの」モートン・ハルペリンさん

社会 | 神奈川新聞 | 2014年5月15日(木) 11:35

日本記者クラブで講演するモートン・ハルペリンさん=9日
日本記者クラブで講演するモートン・ハルペリンさん=9日

米国の国家安全保障会議(NSC)のメンバーを務めるなど政府高官を歴任したモートン・ハルペリンさん(75)が日本の特定秘密保護法を痛烈に批判した。「米国の同盟国や緊密な関係にある国々の中で最悪のものだ」。日弁連秘密保護法対策本部副本部長・海渡雄一弁護士らの招きで来日し、同法の欠陥を指摘する口から語られたのは安倍政権の特異性と孤立だった。

秘密保護法の最大の欠陥と指摘したのは「政府が不適切と考える方法でジャーナリストが政府高官から情報を得て、報じることに刑事罰を設けたことだ」。自身が主導的立場で策定に関わったツワネ原則に照らし、こう批判する。

「民間人、市民が国家安全保障に関する情報を漏らしても、刑事責任を問うてはならないと明確にうたっている。米国の同盟国、緊密な関係の諸国、北大西洋条約機構(NATO)の国々でも、刑事罰を設けている国はほとんどない。あっても1、2年の懲役。この法律はとても厳しい。最悪のものだ」

ツワネ原則とは、国家の安全保障と国民の知る権利のバランスをいかに取るかについて定めた国際ルールだ。国連関係者を含む70カ国以上の専門家500人以上が携わり、2年をかけて議論。50項目からなる指針では国家機密を報じたジャーナリストや市民を処罰しないこと、秘密の範囲を制限すること、監視機関の設置などを規定している。

ハルペリンさんは「逸脱例はまだある」と続ける。「政府の不正を秘密にしてはならないという要件がこの法律にない。内部告発者を保護していない。機密の指定に当たっては、公開の場での議論の重要性を検討するという要件もない。まずは、これぐらいにしておくが」。沖縄返還交渉をめぐる核密約にも関わり、「国家は情報を隠したがるものだ」という真理を知る人物の発言である。

□民主主義からの逸脱

その批判からは制定までのプロセスの特異さも浮かび上がる。

「いま世界中で理解されているのは、秘密保護に関する法律は民主主義社会の仕組みの根幹に関わってくるという認識だ。言論の自由や政府がやっていることを国民が知る権利、政府がやっていることに国民が影響を及ぼす権利を制限する場合、制限は狭い範囲で考えなければならない。慎重な議論が必要だ」

ところが秘密保護法はわずか1カ月の国会審議で成立。「急いで成立させたので、民主社会であるべき手続きを踏んでいない」

比較するのが米国の例。情報機関の職員の身元をどこまで秘密にするかという限定的な法案にもかかわらず、政府や議会で3年間議論が交わされた。

南アフリカでも議会が中心となって秘密保護法が3年近く審議された。「出来上がった法律は完璧ではないが、議論を重ねるという民主主義社会における適切な過程を経ている」

浮かび上がるのは民主主義からの逸脱だ。ハルペリンさんは皮肉を込めて「法案が出てきたとき、日本にはツワネ原則というものを知っている人はいなかったのだと思う」と話すが、事実、安倍晋三首相は「特定の民間団体が示した一つの参考意見として存在する」と国会で答弁し、まともに取り合わなかった。「ツワネ原則は世界のベストプラクティス(最善の慣行)を参考にしたもので、大半は民主的な国々で実際に行われていることを踏まえている。もし民主的な国の政府であれば、この原則から逸脱したら、国民にきちんと説明しなければならない」。つまり民主主義そのものに関心がなかったと、とその目には映る。

□米国の要請ではない

ずっと不思議に思ってきたことがある。日本政府が「外国政府と緊密に情報交換するには、秘密保護に関する法律が必要だ」と繰り返し強調してきたことだ。安倍首相も「NSCの機能を発揮させるためにどうしても必要だ」と答弁している。

日米安全保障、東アジアの核戦略など、さまざまな日米協議に参加してきたハルペリンさんは断言する。「しっかりした秘密保護法制がないという理由で『日本と協議ができない』という話は、米国の関係者から一度も聞いたことがない」

安全保障政策、日米同盟の強化を掲げる安倍政権は今、憲法解釈を見直し、集団的自衛権の行使容認に踏みだそうとしている。

ハルペリンさんは「米国としては歓迎し、支持する」としつつ、慎重かつ距離を置いた物言いは崩さなかった。

「同盟国でありながら日本が米国を守らないことに不満を覚えている人が米国にはいる。だから米国としては対等な関係を歓迎するという、それ以外のことは言えない。歓迎するといっても、どんな問題が起こるかも認識している」

立憲主義を骨抜きにする憲法解釈の変更という、やはり民主主義のルールから外れていく日本への冷視が、そこには浮かび上がっている。

【ツワネ原則の重要15項目】

(1)国民には政府の情報を知る権利がある

(2)知る権利を制限する正当性を説明するのは政府の責務である

(3)防衛計画や兵器開発、諜報(ちょうほう)機関など限定した情報は非公開とすることができる

(4)しかし、人権や人道に反する情報は非公開としてはならない

(5)国民は監視システムについて知る権利がある

(6)いかなる政府機関も情報公開の必要性から免されない

(7)公益のための内部告発者は、報復を受けない

(8)情報漏えいへの罰則は、公益を損ない重大な危険性が生じた場合に限られる

(9)秘密情報を入手、公開した市民を罰してはならない

(10)市民は情報源の公開を強制されない

(11)裁判は公開しなければならない

(12)人権侵害を救済するための情報は公開しなければならない

(13)安全保障分野の情報に対する独立した監視機関を設置しなければならない

(14)情報を無期限に秘密にしてはならない

(15)秘密指定を解除する手続きを定めなければならない

◆特定秘密保護法

防衛や外交、スパイ防止、テロ防止に関する政府の情報を担当大臣らが特定秘密に指定し、漏らした公務員らに最長懲役10年の刑を科する。漏えいを唆した民間人らにも最長懲役5年の罰則がある。秘密の取得罪も定める。秘密の指定期間は原則5年以内だが、延長を認める規定があり、内閣が承認すれば暗号など一部は60年以上も許される。昨年12月に成立し、今年12月までに施行される。「秘密の範囲があいまい」「知る権利が損なわれる」との批判がある。政府の有識者会議が運用基準を検討中で、国会に置く監視機関についても与党を中心に議論が進んでいる。

◆モートン・ハルペリン

1938年生まれ。政治学者。ジョンソン、ニクソン両政権で沖縄返還交渉や核政策に関わり、クリントン政権で大統領特別補佐官。外交問題評議会上級フェロー、米財団オープン・ソサエティ研究所上級顧問。

【神奈川新聞】

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