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先進医療から保険適用へ 横浜市大付属病院に見る先進医療(下)

社会 | 神奈川新聞 | 2014年5月6日(火) 12:00

横浜市大付属病院で実施されれている腹腔鏡下根治的膀胱全摘除術。実績を積み今では保険適用が認められている(同病院提供)
横浜市大付属病院で実施されれている腹腔鏡下根治的膀胱全摘除術。実績を積み今では保険適用が認められている(同病院提供)

「腹腔鏡が実用化されてから、医療技術は急ピッチで進歩している。ただし、腹腔鏡下手術は難易度が高く複雑なものが多い。医師の習熟が求められる」。医学部准教授で泌尿器科の槙山和秀医師は2002年から千件近い腹腔鏡下手術の症例を重ねてきた。

横浜市立大付属病院(同市金沢区福浦)での実績が評価され、10年に先進医療として認められたのが、腹腔鏡を使った「根治的膀胱全摘除術」だ。いわば“市大発”の先進医療で2年後には保険適用になった。泌尿器科のがん手術の中で最も難しく、時間もかかる大きな手術とされ、対応できる医師は限られている。

従来、がん発症による膀胱全摘出は開腹し、メスを使って切除する伝統的な外科手術で行われてきた。手術する場所は骨盤の最も奥底にある。膀胱がんは高齢者が発症するケースが多く、7時間以上に及ぶ手術は体力的にも困難な上、開腹手術では腸閉塞など術後に合併症を起こすケースが多い。腹腔鏡の導入によってこうした課題を解決した。

執刀の方法はこうだ。腹部の5カ所に穴を開け、トロカーと呼ばれる筒を通し、カメラ、電気メス、はさみなど必要な機器を挿入する。二酸化炭素で腹部を膨らませ、医師はモニターを見ながら膀胱、前立腺を取り出し、膀胱周辺のリンパ腺も摘出する。

中でも高度な技術が求められるのが尿路の変更。槙山医師は「腸管を切り、一部を尿路にしたり、左側の尿管を右に移したり、必要な作業が多い」と説明する。

この治療法の利点は「患者への負担や出血量が少なく、合併症も開腹手術より格段に少ない。体力が弱く、開腹手術は無理だった高齢な患者にも根治するチャンスが出てきた」ことにあるという。

市大病院ではやはり腹腔鏡を使い、早期の子宮がんを対象にした根治手術を実施している。開腹手術では15~20センチの皮膚を切開する必要があるが、腹腔鏡を使うことで5~12ミリの小さな穴を4カ所程度に開けるだけで済む。「身体的な負担を大幅に減らすことができ、入院期間も短縮され、早期社会復帰が可能となる」と同病院産婦人科。この手術は今年4月、先進医療から保険適用になった。

■一貫した支援体制

4月1日現在、承認されている先進医療は56種類(先進医療B40種類を除く)。うち横浜市大病院では6種類の先進医療が承認されている。先進医療Aは、先進医療技術による治療に使用する医薬品、医療機器が薬事法上の承認・認証・適用がある場合など、先進医療Bは薬事法上の承認などが得られていない医薬品や医療機器を使用しても一定の条件を満たしている場合など。

横浜市大病院は先進医療推進センターを設置。基礎研究、臨床研究、治験を一貫して支援し、高度かつ先進的な医療の導入と開発の両面に取り組む体制を整備している。

同センター長を務めた横浜市大の窪田吉信学長は「先進医療は申請から承認に至る過程で、厚生労働省など関係機関とのやりとりが多いが、本校ではセンターが一括して対応している。そうした事務的な機能とともに、新しく出てきた研究もサポートし、将来の医療につなげる橋渡し研究の中軸としても機能している」と説明する。

先端医科学研究センターを中心に行っている幅広い研究領域の中で、実際に医療として治療法が確立した先進医療は「氷山の一角」。窪田学長は「その下には多数の研究が広がっている。先進医療は申請から承認まで2年程度かかる。大学を上げてサポート体制を推進することで基礎から臨床、治験へと切れ目なくつなげ、研究成果の早期実用化を目指している」と強調する。

同研究センターでは現在、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を活用した臓器再生の研究が進む。世界的に臓器ドナーが絶対的に不足する中、臓器移植ではなく、体内で臓器を育てる革新的な医療技術で、臨床研究を見据えて研究体制を強化している。

特区で展開する「夢の医療、未来の医療」の早期実現へ、厚労省は、特区における先進医療に該当するかの審査期間を通常の6カ月程度から3カ月程度に半減する方針を打ち出し、3月の中央社会保険医療協議会(中医協)の総会で承認された。

症例の実績を重ねた先進医療については、専門家らで構成する厚労省の先進医療会議が2年に1度の診療報酬改定に当たって保険導入が妥当かどうかを検討し、最終的に中医協が決める。

窪田学長は「基礎研究が臨床研究、治験を経て先進医療へ進み、保険医療に認定されることが最終目標。すべての人が治療を受けられるようになるのが一番望ましい。先端研究を保険医療につなげるためにも審査の迅速化は歓迎すべきことだ」と指摘。

その上で「ただし、先進医療を実施できるは高度な技術や施設を備える病院に限定すべきだ。最先端の施設を持つ病院で生み出し、安全性、有効性が確立した治療法として保険医療につなげる必要がある」との認識を示している。

【横浜市立大学付属病院で実施している先進医療】

骨髄細胞移植による血管新生療法=承認2008年12月、循環器内科

末梢血幹細胞による血管再生治療=10年1月、同

多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術=同5月、眼科

実物大臓器立体モデルによる手術支援=12年4月、整形外科

定量的CTを用いた有限要素法による骨強度予測評価=同8月、同

急性リンパ性白血病細胞の免疫遺伝子再構成を利用した定量的PCR法による骨髄微小残存病変(MRD)量の測定=13年1月、小児科

※いずれも先進医療A

【同病院で実施し保険適用になった先進医療】

腹腔鏡下子宮体がん根治手術=産婦人科

インプラント義歯=歯科・口腔外科

超音波骨折治療法=整形外科

乳がんにおけるセンチネルリンパ節の同定と転移の検索=臨床腫瘍科・乳腺外科

三次元再構築画像による股関節疾患の診断と治療=整形外科

抗悪性腫瘍剤感受性検査(HDRA法またはCD-DST法)=耳鼻咽喉科

小児期の悪性腫瘍に対する18FDGを用いたポジトロン断層撮影による検査=小児科

腹腔鏡下根治的膀胱全摘除術=泌尿器科

内視鏡的大腸粘膜下層剥離術=消化器科

【神奈川新聞】

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