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原発への「経済的な依存心」 推進に警鐘 鎌田慧さんに聞く〈上〉

社会 | 神奈川新聞 | 2014年4月22日(火) 14:00

鎌田慧氏
鎌田慧氏

東京電力福島第1原発事故から3年が経過した。今も13万人超が故郷を追われ、一進一退を繰り返す事故対策は汚染水問題に悩まされ、廃炉への道は遠くかすんでいる。「事故の経験すら安全神話を塗り固める材料にしている」。40年近く、原発の危険性、カネにものをいわせた原子力行政の矛盾に警鐘を鳴らし続けてきたルポライター・鎌田慧さん(75)は、過酷事故を経てもなお、原発再稼働に突き進もうとする政府の姿勢を批判する。

2001年刊行の「原発列島を行く」(集英社新書)でこう記した。

いまのわたしの最大の関心事は大事故が発生する前に、日本が原発からの撤退を完了しているかどうか。つまり、すべての原発が休止するまでに、大事故に遭わないですむかどうかである。大事故が発生してから、やはり原発はやめよう、というのでは、あたかも二度も原爆を落とされてから、ようやく敗戦を認めたのとおなじ最悪の選択である。

「最悪の選択」は、10年後の3月11日、福島で現実となった。

一報に接したのは滞在先のネパールだった。「東北での地震だと聞いて、女川、福島がすぐ頭に浮かんだ。緊急炉心冷却装置が作動したかどうか。それが僕ら原発を取材してきた連中の常識なんだ」。

帰国して事態の深刻さを知り、“想定”との違いにも驚いた。「原発事故が発生したらアナウンサーが金切り声で『重大事故が発生しました。退避してください』と呼び掛けると思っていたが、違った。炉心溶融(メルトダウン)もない、との報道だった」。

東電が1~3号機でメルトダウンが起きたことを示す解析結果を公表したのは、事故から2カ月を経たその年5月。「現実の恐怖がきちんと伝わらないということだ」。

1970年代初頭から全国の大規模開発、公害問題のルポルタージュを著す中で、原発そのもの、原子力行政の矛盾に向き合うようになった。石油化学コンビナート計画などが行き詰まり、いつしか国の核燃料サイクル基地と化した故郷・青森の六ケ所村をはじめ、全国の原発を取材して歩いた。

「隠された秘密基地」。原発の率直な印象だ。「山を越えた岬の先端とか、山影の海岸とかにある。住民から原発の姿はほとんど見えない」。

そして例外なく、どこでも、国と電力会社一体の「カネの暴風」が吹き荒れていた。原発反対闘争が、あの手この手で切り崩され、懐柔されていく様を目の当たりにしてきた。

立地自治体に対し、国は交付金を、電力会社は巨大施設を寄付し、「先進地視察」と称しては丸抱えで住民を旅行に連れ出した。ほかの産業ではあり得ないほどの巨費が立地自治体を通して住民に投じられるのはなぜか-。

「原発は危険そのものだから。危険だからカネを払って無理やり辺鄙な所に造る。その地域は発展すると言うが、何も発展しない。経済的な依存心をつくり出すだけだ」

カネさえ入ればいい、という地方自治体の首長の退廃をつくりだしたのは、とにかく交付金をバラまいて原発政策を推進してきた日本政府である。

人心の汚染、それが環境汚染の前にはじまり、自治体の破壊、それが人体の破壊の前にすすめられてきた。 (原発列島を行く)

導き出した結論はこうだ。「原発は民主主義の対極にある」。

事故後の3年間は、「命の危険と経済発展を天秤にかけ、価値判断を迫られ続けてきた歳月」と感じている。

避難生活の長期化による疲労、体調悪化、絶望による自殺…。被災地の「震災関連死」は累計で3千人を超えた。福島県では、津波や地震など震災を直接の原因とする死者数を上回り、今も増え続けている。

「奥尻島も阪神大震災も取材したが、何年かすれば自宅に帰ることができた。しかし、福島は違う。絶対に帰れない所も現実としてある。福島の被災者の精神的負担はこれまでと全然違う次元にある」

「事故は目下、進行中だ。汚染水タンクがどんどん増え、高濃度汚染水は漏れ続けている。3・11から何も解決に向かっていない」。それが率直な思いだ。

だが、政府が閣議決定した新たなエネルギー基本計画は原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、国会はトルコ、アラブ首長国連邦(UAE)への原発輸出を承認した。原子力規制委員会は九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)の審査を優先して進めることを決定。今夏の運転再開の可能性も取り沙汰されている。

だから、天秤は「経済発展」に傾いていると思わざるを得ない。「今度こそ、安全だと言って再稼働を目指す。事故の経験すら安全神話を塗り固める材料にしている。考えられない」。

「細川護熙、小泉純一郎、鳩山由紀夫、菅直人。歴代首相はみんな原発ゼロと言っている。そんな国は世界でもないだろう。なのに、今の首相が原発をやるというのは非常識だ」

すべての原発が停止している今、電力不足に陥っていることもない。

「国は、原発がなくても生活できる道を立地自治体に、住民に示すべきだが、官僚、原発メーカー一体であくまで原発にしがみついている」。そして、国内でこれ以上原発を造れない政府やメーカーは、海外に活路を見いだそうとしている。

「原発輸出は、核拡散と同じではないか。成功しない核燃料サイクルを頑張り続けるのも、核関連産業の技術基盤を保持しようということだ」。古い体制の維持だけに目が向き、自然エネルギーへの転換という社会的要請に背を向けている、としか映らない。

「原発を推進する論理は破綻している。なのに、もう一度こじ開けて無理やり危険な状態に入ろうというのが安倍政権の再稼働方針だ。国民には原発に対する厭戦気分が広がっているのに、まだ突進しろと、そう言っている」

◆かまた・さとし

ルポライター。1938年、青森県弘前市出身。早大卒業後、業界紙や雑誌記者を経てフリーに。著書に「自動車絶望工場」「六ケ所村の記録」「日本の原発危険地帯」など多数。2011年6月にスタートした「さようなら原発1000万人アクション」の呼びかけ人の1人。

【神奈川新聞】

 
 

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