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愛国の超特急(上) 北海道新幹線の実体 「真っすぐの思想」

社会 | 神奈川新聞 | 2014年4月6日(日) 12:21

真っすぐな線路で風景を切り開いて走る新幹線。写真は東海道新幹線の開業前、県内の「鴨宮モデル線」で試験走行を行う試作車両=1962年(神奈川新聞社撮影)
真っすぐな線路で風景を切り開いて走る新幹線。写真は東海道新幹線の開業前、県内の「鴨宮モデル線」で試験走行を行う試作車両=1962年(神奈川新聞社撮影)

北海道のJR函館線渡島大野駅は、もとは畑の真ん中にある小さな無人駅だった。函館駅から17・9キロ、普通列車で25分ほどの距離に位置し、特急や急行は止まらない。

ここに2年後、北海道新幹線の新函館駅(仮称)ができる。今は何台ものクレーンがそびえ、巨大な駅舎の骨組みが姿を現し、コンクリートの高架橋が地平線の向こうへ直線を描く。

だが、「新函館」といいながら、函館市にあるわけではなく、所在地は隣の北斗市。そもそも新幹線のルート自体、函館市内をかすりもしない。

「東京と札幌を直結することを優先したからだ」と、北海道教育大(函館市)の田村伊知朗教授(政治学)は説明する。新函館は当面の終点だが、新幹線の最終的な目的地は札幌。津軽海峡に突き出た砂州の上にある函館の街を経由するのは、確かに遠回りになる。

■函館を避ける意味

言うまでもなく、新幹線の効用は移動時間の短縮にある。旧国鉄の全線に乗った紀行作家の故・宮脇俊三さんは、山口県・岩国の山あいで夕暮れを迎えながら、その日のうちに東京へ帰れる山陽新幹線(1975年開業)の存在を感慨深げに「魔法の杖(つえ)だ」と表現した。

高速移動を可能にした鉄道の技術は、19世紀に実用化されて以来、世界の風景を変えてきた。

切り通しや盛り土、トンネル、高架橋によって「固くて、滑らかで、平らでまっすぐなレール」が敷かれ、自然を「裁断」した-。ドイツの社会学者ウォルフガング・シベルブシュさんは、77年の著書「鉄道旅行の歴史」でこう指摘している。

日本の新幹線は、「裁断」を突き詰めた姿だ。JR東海が2027年の開業を目指すリニア中央新幹線は南アルプスをトンネルで貫き、東京-名古屋間を40分で結ぼうとしている。

そういう直線的な造形の意味は、単に技術的に合理性が高い、というだけではない。北海道有数の観光地で、27万の人口を擁する函館を避けてまで「真っすぐ」に固執する背景には、国を挙げた「中心への志向」という思想が潜む。

■一極集中が極まる

田村教授は考える。「北海道新幹線の実体は札幌新幹線である」と。東京やさいたま、仙台などの大都市と短時間で結ぶことで、人口193万の大都市・札幌と、その周辺都市の経済的な価値は一層高まる。同時に予見されるのは、より加速する一極集中だ。「新幹線は北海道全体に経済効果をもたらすといわれるが、そうはならないだろう」

既に今も、北海道の面積の1割強にすぎない札幌周辺の地域に、人口の6割が集中している。相次ぐ事故を通じて収入基盤の脆弱(ぜいじゃく)さが指摘されているJR北海道の経営の柱は、もはや本業の鉄道ではない。札幌駅ビルなど関連事業の売り上げは、道内のJR全線の運賃収入を上回るという。これも一極集中を示す一例といえる。

その上、新幹線が人々の移動を活発化させる、という「神話」自体も前提条件が変わりつつある。

確かに、九州新幹線の開業(11年)によってJRの利用者が4割近く増えた博多-熊本間のように、旅行の需要を喚起する効果はある。だが既に、日本の人口は減少基調に転じた。

鉄道と社会の関係に詳しい横浜出身の地図研究家・今尾恵介さんは、昨年10月に本紙などに寄せた評論で、リニアが開業する27年の生産年齢人口が現在より12%減る、という国立社会保障・人口問題研究所の推計(12年)を挙げ、需要予測に疑問を呈した。「通勤客の減少で今後確実にすいてくる電車を尻目にリニア通勤をする人が激増するとか、そんな想定で数字を積み上げたのだろうか」

人口減少時代に向かって延びる新幹線のレール。その“終着駅”を田村教授は見据える。

「新幹線の止まる主要都市に人口が集まり、行政効率は向上するだろう。だが、それ以外の地域では生活や文化が衰退し、破壊されるかもしれない。そこに読み取れるのは『地方を見捨てても構わない』という国家的な意思だ」

東京-大阪間の日帰りを可能にした東海道新幹線の開業から、10月で50年。リニア中央新幹線は早ければ年内にも着工の見通しという。「夢の超特急」はこの半世紀、国民の希望を喚起し、国力を誇示する国家的な事業であり続けてきた。

一方で「魔法の杖」と感嘆した宮脇さんは、新幹線の「代償と副作用」にも気づいていた。著書「終着駅は始発駅」(1982年)に、会社員時代の経験をこうつづった。「新幹線ができる以前は、訪問される側にも、『遠路はるばるよく来てくれた』との意識があり、それが仕事の推進の上で無形の力となっていた」。その「力」は、新幹線ができて「薄らいだ」という。短時間で行き来できることが、必ずしもコミュニケーションを深化させるわけではないのだ。

高速化は人々に何をもたらし、何を失わせたのか。

◆北海道新幹線 東北新幹線の終点・新青森から青函トンネルを挟み新函館(仮称)まで148キロの整備新幹線。2015年度末に開業する予定で、東京-新函館間が4時間余りで結ばれる。運行主体はJR北海道。新函館から札幌までの212キロを延伸する計画もあり、35年度の開業を目指し12年に着工した。新函館の駅名をめぐっては、所在地の北斗市が市の名を冠した「北斗函館」を主張し、当初案の新函館を支持する函館市と対立している。

【神奈川新聞】

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