東京電力福島第1原発事故後、放射性物質は神奈川県内にも降り注いだ。
この問題で横浜市は最初、子どもたちの安全を重視し、さまざまな対応を続けた。未就学児が集まる保育園については、より一層入念に対応。事故から半年後の2011年9月には市内300超の園に対し、汚染濃度が高いと思われる側溝や雨どいなどにたまった土をすべて除去し、保管するよう指示している。
さらに12年2~3月には、専門業者に委託し、土壌の空間線量を測定するなど継続した管理を行っていた。
こうした姿勢が大きく変わるのは13年12月、市放射線対策本部が「除去して保管中の土壌の埋め戻し」を決定してからだ。これに沿って市こども青少年局は14年9月、各園に「埋め戻し」を求める文書を配布。その結果、5園が基準値を超えたことがある汚染土壌を園内の庭などに埋め戻した。
子どもの安全を守る立場にある同局は、市の「放射線対策本部」が決めた埋め戻しをどのように考えたのか。園や保護者にどう説明したのか。
今年9月29日、記者は保育・教育運営課の担当課長を訪ねた。
切りが無い
-13年12月、市の放射線対策本部は放射性物質を含んだ土を埋め戻す方針を決めました。なぜ「保管」が「埋め戻し」になったのか。
「そもそも、どう処分するか決まらなかったので保管していたのです。原発事故があって、どうも雨どいの下などが危険らしいと分かった。で、予防措置として(土を)集めておこう、と。その後、土をどう処理するか、国の方針が何も出ていない。放っておくこともできないから、しっかり見て、保管しておいてください、と」
-線量が高いから保管していたのでは。
「基準値より低いものもあります」
-でも、14園については市の独自基準値を上回っていました。その線量の高い土を「埋める」と判断した理由が分かりません。もともと線量が高く、子どもたちに影響を及ぼすかもしれないから除去したわけですよね?
「『横浜市としての方針なんです』としか言えないことをご理解いただきたい。基準を超えているものを埋めていいのかどうか、正直、私は答える権限もなければ、立場でもない。ただ、考え方として(基準の)対象物から1センチで0・59マイクロシーベルトを超えたものでも適切に埋設処分して、埋めた後の空間線量が下がれば影響はない、という発想だと思います。(国の特措法に基づく)『指定廃棄物』のように、ずっと管理していかなければならないほど高い値ではありません」
-指定廃棄物に指定された横浜市の汚泥は、数値を測った結果、8千ベクレル以上の値が出たから、「指定廃棄物」に指定されたわけです。市のマイクロスポット土壌は土そのものを測っていません。だから土に含まれる放射能の値も分かっていない。どうして、土そのものを測らないんですか。
「法律的に言うと、除去した土壌は土であって、廃棄物ではありません。そこが一つ壁になっています。『指定廃棄物』は8千ベクレル以上という国の基準があるけれども、土壌に関しては基準がないそうです」
「仮に土そのものを測って、高い濃度の放射性物質が出たからと言っても、空間線量は0・59マイクロシーベルトというレベルなんですよ。そしたら、どこまで測りますか? 園庭の土、全部取りますか? 全部検査しますか? もしかしたら高い数値が出るかもしれません。可能性を挙げたら切りが無い。税金でやっているのでコストとの兼ね合いもある。これ以外にもいろいろ課題がある中、どこにどれだけ注意を払っていくか。どこまで皆さんの心配に向き合っていかなければいけないのか、迷っている部分はあります…。今のは個人的な感想です」
得はどっち
担当課長への取材は続いた。