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~関東大震災90年~ 津波が襲う(2)
未曽有に学ぶ〈26〉鎌倉◆第2波で大きな被害

社会 | 神奈川新聞 | 2014年2月17日(月) 12:16

由比ケ浜に押し寄せた津波の跡を題材にした絵はがき(鎌倉市中央図書館提供)
由比ケ浜に押し寄せた津波の跡を題材にした絵はがき(鎌倉市中央図書館提供)

母に口酸っぱく言われたことがある。「地震のときは物なんかにこだわっちゃいけない。とにかく身一つで逃げなさい」。穏やかな海が広がる鎌倉市材木座に暮らす伊藤武子(82)はいま、その言葉をかみしめている。

母にそう言わしめたのは1923年9月1日の苦い経験だった。当時切り盛りしていた青果店「八百利」は光明寺のすぐそばにあった。

記録によって異なるが、当時の鎌倉町では、火災なども含め400人前後が犠牲になった。「鎌倉震災誌」は津波の死者数までは明らかにしていないものの、材木座の状況をこう伝えている。

〈光明寺門前は海嘯(かいしょう)のため殆(ほと)んど全滅した〉

「海嘯」とは、当時使われた津波と同義の言葉。家屋の被害については、明確な数字がある。

〈流失三十戸〉

「土台から流された」という伊藤の生家も、その中に含まれていた。「それでも母が語っていたのは、同じ場所で再建を果たすまでの苦労話ではなく、津波からの避難のことだった」

毎日のように聞かされた教えを実践する機会が3年前にあった。三陸沖で起きたマグニチュード(M)9・0の超巨大地震。相模湾には大津波警報が発表された。

携帯ラジオを持ち、訪ねてきていた知人とともに、寒さに耐えながら高台へ。母が抱いた思いに現実が重なるようだった。「津波は砂を含んで黒く、入道雲のように迫ってきた、と母は振り返っていた。本当に恐ろしかったのだろう」

90年をへて重みを増す伊藤の母の体験談に、鎌倉市中央図書館近代史資料室の平田恵美(68)は関心を寄せる。「体験者に直接聞き取りを行うのはもはや難しい。伝え聞いた家族の言葉も貴重な手掛かりになる」

平田が同僚らと地道に収集、発掘しているのは、鎌倉に当時住んでいた文士や市井の人々が残した手記や日記。相模湾沿岸域でとりわけ激しかった鎌倉の津波被害をきちんと検証し、将来の備えにつなげたいとの思いがある。

これまでに掘り起こした資料や証言は60近く。パソコンで打ち直して冊子にまとめ、震災90年の節目に合わせた昨年9月1日からの展示会場に置くと、多くの来場者が足を止めて見入った。

〈第二震から十分か十五分位も経過していたのでしょうか。津浪の先端は若宮ハイツの先辺りで止まった様でした〉

〈海濱ホテルの辺りは小高い砂丘になっている。津波はそこを避けて、ただでさえ低いこちらの稲瀬川の河口方面に押し寄せた〉

鎌倉震災誌もこうした目撃談を一部引用。第1波よりはるかに高かった第2波によって当時の鎌倉町全体で113戸が流失したと報告しているが、局所的な浸水状況は平田たちがまとめた冊子の方が把握できる。

伊藤の生家についても、震災をテーマに編集された小学校同窓会の文集にこんな記述がある。

〈津波は農家に激突したあと方向を一転して光明寺側を集中的に襲う結果となった。その証拠に裏の畑には『八百利』の品物が西瓜(すいか)を初め果物の数々野菜、缶詰類がプカプカ浮いているではありませんか〉

平田はいま、手記の書き手の遺族らに連絡を取り、冊子を日常的に公開するための了承を得る作業も進めている。節目を過ぎても関心の高まりに応えられるようにしたい、との思いがあるからだ。

一方で、手記を読み込むほどに痛感する。「個人の体験だけでは、正確な実態はつかめない」

鎌倉には、津波来襲後の写真や絵はがきが数多く残り、文字による記録の欠落を補う。これらも生かしつつ、より詳細に状況をつかめないかと、かつての被害現場を訪ねてもいる。

昨年12月、一緒に海沿いを歩いた鎌倉市総合防災課の学芸員浪川幹夫(54)は実感を込める。

「私たちは3・11の巨大津波をイメージしがちだが、関東大震災の津波はそこまでの規模ではなかった。でも、だからといって津波が小さかったと思ってはいけない。3メートルを超えれば、それは大津波だ」

市内に残る震災関連の石碑や供養塔も洗い出した浪川だが、「なぜか津波の被害を刻んだ碑は見つからない」。だからこそ実態を詳しく調べ、「到達点に何らかの目印を付けるようなことができないか」と対策に思いを巡らせる。

今年1月、鎌倉で津波をテーマに講演した県温泉地学研究所主任研究員の萬年一剛(42)はこう述べた。「津波に備える上で関東大震災は非常に重要。なぜなら、実際に起き、将来最も起こり得る津波だからだ。より高い規模について考える前に、まずはこの津波から避難する方法を見いだすべきだ」

【神奈川新聞】


53戸が流失、材木座や長谷を上回る被害が出た坂ノ下の惨状を収めた写真(鎌倉市中央図書館提供)
53戸が流失、材木座や長谷を上回る被害が出た坂ノ下の惨状を収めた写真(鎌倉市中央図書館提供)

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