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アルジェリア事件1年:浮かび上がる「宿命」、三井物産戦略研究所会長・寺島実郎さん

社会 | 神奈川新聞 | 2014年1月25日(土) 11:53

寺島実郎さん
寺島実郎さん

アルジェリアのガス田施設がイスラム武装勢力に襲われ、プラント建設に当たっていた日揮(横浜市西区)の日本人駐在員ら10人が犠牲になった事件から1年が経過した。惨劇は何をもたらし、残された教訓にどう向き合うべきか。海外のプロジェクトに長年携わり、アフリカや中東の情勢に詳しい三井物産戦略研究所会長、寺島実郎さん(66)に聞いた。

3万冊余の蔵書に囲まれた一室で、寺島さんは静かに切り出した。

「事件から1年たったいま、冷静に論点を整理し直さないといけない」

企業のリスクコントロールに国家の安全保障戦略、背景にある国際情勢。示したのは三つの視座だ。「どれも簡単には論じられず、決定的な解決策もない。問題の難しさはそこにある」

■戦後のジレンマ

1980年代前半、イランでのプロジェクト遂行のため情報収集に奔走した。その経験がこう言わせる。「海外でのプロジェクト展開に伴うリスクは計り知れないものがある」

三井物産が手掛けた石油化学コンビナート建設は困難に直面していた。イラン革命が79年に起き、80年にイランイラク戦争が勃発。建設サイトはイラク軍による爆撃を30回以上受けた。

寺島さんは言う。「日本経済を支えるためにある種の覚悟を持ち、企業戦士として現地に向かった大勢の人たちがいた」。そして今回の事件も「その延長線上にある」。

覚悟とは何か。寺島さんは「戦後日本の宿命」「平和国家のジレンマ」と表現する。

「いざという事態に軍隊が助けに来てくれるわけではない。いら立ちも覚えるかもしれない。だが、それが日本の宿命だという認識をしておかなければいけない。哀(かな)しみを踏まえながら、日本は戦後を歩んできた」

敗戦から国際社会への復帰が認められ、経済大国として世界中で事業を展開するまでになったのも過去の反省に立ち、不戦を誓った憲法の存在があったからだった。

■教訓共有されず

事件は、アルジェリアの隣国マリへのフランスの軍事介入が引き金となった。フランス軍の目的はイスラム過激派の掃討。反発した武装勢力は報復としてガス田施設を襲撃した。

「相手は自爆テロも辞さない組織。そのような組織に対応できる体制を民間企業が整えるのは不可能だ。いち日本企業が制御できるリスクの限界を超えている」

実際、施設はアルジェリア軍や現地警察の警護にもかかわらず、襲撃を防ぐことはできなかった。

ガス田施設を共同運営するノルウェーの石油・ガス大手スタトイルは事件後、事件の詳細な経過や対策をまとめた報告書を公表。警備を軍に頼りすぎ、武装集団の侵入は想定外だったと指摘した。

日揮も生存者らから聞き取り調査を実施。事件の検証と安全対策の改善を進め、危機管理部門も強化した。現地での建設工事は年内にも再開する見通しで、アルジェリア政府やガス田運営会社と警備態勢の見直しを協議している。

ただ検証結果は公表されておらず、詳細は明らかになっていない。

「確かに問題意識は深まり、情報収集や連絡体制の構築などある程度の改善を果たしたはずだ。しかし、その教訓は社会全体で共有されただろうか。議論を呼び起こし、さらに国としてどのように対処していくのかというところまでは踏み込めていない」

■危機管理のずれ

事件発生直後、現地から日本に届く情報は錯綜(さくそう)し、実態把握は困難を極めた。

政府は危機管理体制強化のため、国家安全保障会議(日本版NSC)を創設。各省庁の縦割りや関係国との情報共有システムの不備という問題の解決を図り、情報を一元的に集約する狙いがある。

だが、政府が「事件の教訓」を大義名分にしている感は否めない。寺島さんは指摘する。

「NSC創設の議論が一気に加速した背景にこの事件があったことは確かだが、NSCがあれば今回のような事態への対応力が高まるかというと疑問だ。日本だけでできることは非常に限られる。大切なのは国際社会と慎重な合意形成を進める中で、どう国民の安全を図っていくかということだ」

米国をモデルに創設されたNSCのあり方そのものにも「ずれ」を感じている。米国での創設は47年。第2次大戦終結から2年後のことだ。

「戦勝国では軍部が力を強め、政治主導で物事を進めることが難しくなる。外交や安全保障の主導権を大統領府に引き戻すためにつくられたのがNSCだ。情報統合体制を整えることで、軍部に振り回されて不必要な戦争に巻き込まれないようにする目的があった」

では、日本版はどう映るのか。

「効率的に戦争ができる体制をつくるためのもののようにNSCを理解している。まるで統合参謀本部をつくるかのような発想だ。それは全然話が違う。中国と向き合うためにはより効率的な軍事態勢が必要だという意図を持ち、別のアクセルを踏んでいる」

時を同じくして、緊急時に海外で邦人の陸上輸送を可能とする改正自衛隊法が成立。自衛隊が携行できる武器の制限も撤廃された。

「在外邦人保護を名目に自衛隊の海外派遣ができるからといって、例えば事件があったアルジェリアに乗り込み、武装ゲリラとの戦闘に自衛隊を展開できるかというと、理論上はあり得ない」

■秩序構築に向け

政情不安が続く中東から北西アフリカの一帯。イスラム武装勢力の拡大の背景には大国の思惑が絡んでいた。

冷戦さなかの78年、旧ソ連がアフガニスタンに侵攻。対抗する米国は武装ゲリラに武器供与や軍事訓練を行って支援した。しかしその後、大国の横暴に対する怒りが各地で噴出。皮肉にも武装勢力の標的は米国に向かい、2001年9月の米中枢同時テロが引き起こされた。以後、国際社会はイスラム過激派とは、ほとんど対話不可能な状況に陥って久しい。

「多くの日本人は自国民が犠牲になった背景に、アフリカのマリというこれまで目を向けてこなかった国の問題があったと初めて知ったはず。事件を通して知っておくべきことは国際社会の底流の変化だ。もはや米国がにらみを利かせれば押さえつけられる状況ではない。重要なのは国際秩序の構築であり、それにはイスラム社会との対話が必要。過激派さえも含め、国際社会の建設的関与者として取り込んでいく仕組みを、粘り強く作り上げていかなければいけない。それができなければ事件はなくならないどころか、ますますエスカレートしていくだろう」

いまも中東にアンテナを張る寺島さんは毎年いずれかの国に赴き、現地の日本企業などに向けた情報発信を続けている。講演用にまとめられた資料集には次のような一節があった。

〈「覇権なき中東」における日本独自のプレゼンスの大切さ…中東に対する領土的野心も武力介入もなき唯一の先進国〉

24日、施政方針演説に立った安倍晋三首相は、憲法が禁じてきた集団的自衛権の行使容認へ意欲を見せた。

◆アルジェリア人質事件 アルジェリア南東部イナメナスのガス田施設で昨年1月16日、外国人多数がイスラム武装勢力に拘束された事件。アルジェリア軍は17日に犯行グループへの攻撃を開始し、19日に作戦を完了。英石油大手BPと施設を共同運営するノルウェーの石油・ガス大手スタトイルの報告書によると、10カ国の40人が死亡。日本人はプラント建設大手、日揮の社員ら17人が人質となり、10人が死亡した。

てらしま・じつろう 1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。ニューヨーク本店情報企画担当課長、ワシントン事務所長、統合情報室長、常務執行役員などを経て、現職、日本総合研究所理事長、多摩大学学長。川崎市先端科学技術成長戦略アドバイザリーボードメンバーも務める。

【神奈川新聞】

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