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時代を読む~若手論客に聞く(1)社会思想・政治学者=白井聡さん「平和と繁栄の終わり」

社会 | 神奈川新聞 | 2013年12月31日(火) 22:21

敗戦を直視せず、米国に従属し、戦後日本は平和と繁栄を享受してきた。その時代が本当に終わりつつある。これまでの物語にしがみついて生きるのか。それともまだ見ぬ世界に踏み出すのか。社会思想・政治学者の白井聡さん(36)は、私たちの覚悟を問うている。

■「終戦」の意味

戦後、日本人は敗戦を実感せずに生きてきた。もちろん1945年8月の段階では、そこら中が焼け野原で、負けは誰の目にも明らかでしたが、復興し、経済成長を遂げた。V字回復です。

70年代以降、戦勝国であるソ連や中国と比べて生活水準にはっきりと差が出て、どちらが敗戦国か分からなくなった。むしろ「負けてよかった」という意識を日本人は持ち続けてきたのではないでしょうか。

そのとき、日本の支配層が引いておいた「伏線」が見事に生きてきた。

8月15日は「敗戦の日」ではなく「終戦の日」です。なぜこの日か。連合国に対してポツダム宣言を受け入れると通知した14日でも、ミズーリ号の上で降伏文書にサインした9月2日でもよかったのに。

終戦の日は用意周到に誘導されたのです。8月15日は、死者が帰ってくるお盆に当たる。普通の死者と戦争の死者を一緒にして、戦争が天災のようなものになった。開戦の判断や降伏のタイミングなど、もっと合理的な政治判断があれば避けられた犠牲があいまいにされた。

玉音放送だってそう。「降伏」とか「敗戦」といった言葉が出てこない。玉音放送で国家による「敗戦のごまかしプロジェクト」は始まり、経済成長によって完成した。

では、なぜ敗戦を否認してきたか。戦前の指導者層の権力を戦後も温存するためです。

普通に考えれば、「なんでまたあいつらが偉そうな顔をしているんだ」という話。でも、そもそも負けていないなら誰も責任を取る必要はない。

敗戦の否認を可能にしたのは冷戦構造です。米国としては、日本が社会主義陣営に走らないよう、豊かになってもらわなければならなかった。

米国にべったりと従属して冷戦の最前線を台湾や朝鮮半島に押しつけ、日本は平和と繁栄を享受してきた。この戦後のレジーム(体制)を僕は「永続敗戦」と呼んでいます。

■歴史認識映す

冷戦が終わってこのレジームは崩れたはずでした。でもしがみついてきた。

平和と繁栄の時代が本当に終わったと社会が実感したのは東日本大震災のときです。あの光景を見れば納得できる。

特に原発事故は大きい。日本のエリート層に対する社会の信頼が揺らいだ。優秀と思われてきた官僚機構が実は相当にスカスカだった。素人向けについた「安全神話」といううそに、彼ら自身がだまされていた。ここまでずさんで、うかつな人たちだったなんて、それこそ「想定外」です。

それでも敗戦の否認は今も続いています。在日コリアンの排斥を主張するヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)にも、明瞭に表れている。

大日本帝国においては朝鮮人は二級市民扱いされ、半ば公然と差別していい対象だった。敗戦の結果、同等の基本的人権を持つ存在として尊重することになった。

それを、現実に差別的発言をすることで「本当は負けてない」という気分になれる。敗戦を認めずに済む。

怖いのは、現に声高に叫ぶ彼らは少数者だが、実はマジョリティーということ。だって戦後の日本人は敗戦を否認してきたじゃないですか。その歴史意識を非常に極端に煮詰めた、僕たちの自画像なんです。

■成長神話崩壊

アジアとの関係がうまくいかないのは、米国の後ろ盾を前提に付き合おうとするからです。つまり「ドラえもん」でいうところのスネ夫。米国というジャイアンの陰に隠れて、「のび太のくせに」ならぬ「アジアのくせに」と指をさす。アイデンティティーは「家が金持ち」ということ。

経済成長が止まって、近ごろスネ夫のアイデンティティーは崩壊しつつある。だから安倍政権は経済成長を取り戻そうと死に物狂いです。

それにしか価値を見いだせないのは、経済成長を実現する限りにおいて戦後の保守政治は支持され、戦争責任が免罪されてきたから。その系譜を継ぐ安倍政権が経済成長を続けられなければ、その正当性は消滅してしまいます。

けれども親分であるはずの米国は丸々と太った子豚を放ってはおかない。TPP(環太平洋連携協定)のように強い収奪の姿勢をみせてきている。傀儡(かいらい)保守政権がこれに抵抗できないのは当然。これこそ永続敗戦の帰結です。

日米同盟基軸論者は米国が日本を守ってくれることを前提にしているが、日米安全保障条約だって、日本を守ることが米国の国益になる限りにおいて日本を守るかもしれないというだけです。その意味で自主防衛以外に道はない。ただし、自己保身のために戦争を続けた末に多くの国民を死なせた人たちの継承者に国防を語る資格はありません。

■語られぬ政治

新年だから明るい話題? そうですね、唯一の希望は沖縄独立の動きでしょうか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんは「絵空事ではない。沖縄の政治エリートたちがその気になれば、短期間で独立できる」と長年強調しています。

そういう動きは本土に大きな刺激を与える。「そういうことをしていいんだ」って。

先日も三浦市で米軍ヘリの不時着事故があった。艦載機の飛行ルートを米軍に問い合わせても教えてもらえない。日米地位協定があるからです。沖縄や神奈川だけでなく、日本中どこも同じ。「それでいいのか」という声が、大きくならなければいけない。

「仕方ない」とやり過ごす国民に問題がある。主権者という意識がない。憲法に書いてあったって、主権者たろうと努力しない限り主権者たりえない。

こういう話は必ず波風が立つ。日本政治の専門家が論じるべきだけど、空気を読んでいるのか、誰も言わないから僕が言いました。若者が政治に興味を持たないと言うけれど、当たり前。生臭い政治問題を語る教育者や学者が少ないからです。

何が起きたらこの国民は正気に返るんでしょう。原発事故で殺されかけたのに。首都圏で今こうやって生活できるのはたまたまだと、なぜ気付かないのか。政府が演出するクールジャパンとか絆じゃなくて、本当に守るべきものを僕らは持っているのでしょうか。

×  ×

われわれはいま、どのような時代を迎え、どこへ向かおうとしているのか。次世代を担う若手の論客に聞く。

◆しらい・さとし 1977年、東京都生まれ。文化学園大学助教。専攻は社会思想・政治学。近著に「永続敗戦論-戦後日本の核心」(atプラス叢書04)。

【神奈川新聞】

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