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刻む2013(5) 世界遺産「不登録」、鎌倉の気勢どこへ

社会 | 神奈川新聞 | 2013年12月27日(金) 10:23

6月。富士山が世界文化遺産に登録された陰で、国内で初めて「不登録」と評価された「武家の古都・鎌倉」は、推薦を取り下げた。将来的な再推薦を目指すとしながらも、取り下げから半年後を見渡すと、「いざ、鎌倉」の気勢はどこへやら。鎌倉はこれから、どうなるの?

「この名刺ももう使えないな」。ある鎌倉市幹部は名刺交換のとき、苦笑いをしながら差し出した。氏名や所属部署の左隣には、「武家の古都・鎌倉」とロゴが入っていた。

師走。登録に向けた取り組みは大きな区切りを迎えた。市民団体や宗教関連団体、商工関連団体など地元の111団体を束ねてきた「鎌倉世界遺産登録推進協議会」(会長・松尾崇市長)が発足から7年半を経た今月10日までに、事実上の解散をした。活動の目的だった「武家の古都・鎌倉」というコンセプトでの推薦を取り下げ、役割はすでに終わったというのが理由の一つだ。

11月30日の役員会の時点で、すでに複数の役員が辞意を表明。協議会を存続や休止にしてもさらなる辞任が続く可能性があるのが実情だった。再立ち上げの前提の一つとなる「イコモス勧告の詳細分析」について、市は2013年度内に一定の区切りを付けたいとする。しかし、「新たなコンセプトの決定」はめどが立たない。

同じ日、役員会に続く総会は、市民も迎え入れられる300席近い会場を確保したが、半分以上が空席だった。「大事なのは市民なのに。事務方が報告をするだけで、何かを活発に話し合うような雰囲気はない」。その場にいた市議の1人は、ぼやいた。

市民の関心をどう広げるか。終始付いて回った課題は、なお残されたままだ。

◆正念場も“二兎”追う市

中世景観か住環境か-。イコモスが「19世紀末以来、絶えず繰り返される課題」と指摘した鎌倉の緊張関係は4月の不登録勧告後、開発寄りに傾いた。

武家文化の物証不足を指摘されながら、鎌倉幕府の政務をつかさどった政所(まんどころ)跡地(鎌倉市雪ノ下)で認可保育所の建設が検討されている。

「三方山、一方海」の要害的地形を成す由比ケ浜海岸近くには、ショッピングセンターの建設計画が浮上。予定地は、世界遺産候補地の価値を守るために法令に基づいて設定されるバッファゾーン(利用制限区域)内にある。

この計画は現状の書面上では法令に適合しているが、市は世界遺産登録を目指す立場上、「(建設を)認めたくない」とけん制する。この「打つ手なし」の苦境は際どい開発のたびに使われる「決まり文句」との皮肉も、市内部から漏れる。

「遺産保全を支持する世論の問題は極めて重要である」。保全の大義を説きながら、開発を容認する「二枚舌行政」(市職員)を見透かしたように、イコモスは言及した。

ユネスコ世界遺産委員会による文化遺産候補の審議対象は、14年から1国1件に絞られる。10件がひしめく国内の推薦レースを再び争う鎌倉は、正念場を迎えながらなおも、世界遺産と都市化の“二兎”を追う。

◇◆◇「地元が根幹考えるべき」

文化庁長官 青柳正規氏

新コンセプトは? 再推薦はいつ? 7月に就任した青柳正規・文化庁長官(69)に投げかけると、「主役は地元」と返ってきた。登録の成否は、現地の覚悟に委ねられている。

-鎌倉の推薦から取り下げまで、青柳長官は国立美術館理事長だった。一連の登録審査をどうみていたか。

鎌倉の事情は10年以上前から(学者仲間に)聞いていた。地元の盛り上がりがいまひとつなことや、市長交代のたびに(文化財行政の)方針が変わることが気になっていた。(天皇居住地の)capital(首都)と幕府の関係を世界がいかに理解するかについても、なかなか難しいと感じていた。

-武家文化の物証不足を主因とした不登録勧告を踏まえると、「武家の古都」というコンセプトは丸々変更されるのか。

勧告内容を十分に読み込み、どこに可能性があるのか精査しないと、新しいコンセプトは見つからない。とにかく、従来のコンセプトに肉付けするだけでは厳しい。一方で、推薦を取り下げたことは賢い選択だった。修正や再構成に自由が広がった。

-新コンセプトの構想は。

根幹は地元が考えるべき。文化庁は専門的、技術的な助言で貢献したい。やっぱり、主役は地元だからね。

-再推薦はいつごろになりそうか。

全くわからない。コンセプトを作り、OUV(顕著な普遍的価値)を証明できるまでの段階に達して判断できる。現時点では材料が何もない。

-地元の推進団体が11月に解散し、市民間で登録への機運がしぼんでいるようだ。

鎌倉が目指す方向を市民がどれだけ理解しているかが大事。世界遺産の住民は不便をむしろ誇りに替えて生活している。歴史的、文化的に貴重な遺産に住んでいるという誇りが、機運の醸成につながるのではないか。

-世界遺産の総数は2014年に千件を超える見込み。ブランド価値が衰えつつあるようにも思えるが、日本が今後も世界遺産を目指す意義はあるか。

日本は南北に広がりがあり、大規模に焦土化するような戦争もなく、文化的継続性もある。つまり、とても豊かな文化コンテンツを持っている。日本文化全体を示すために、もう少し数が増えていい。

-そもそも、鎌倉は世界遺産にふさわしいのか。

文化的な蓄積はとてもある。鎌倉大仏はあれだけの大きさで、さや堂がないのは圧巻だ。鎌倉は、日本が世界遺産条約を批准した1992年から国内の暫定リストに記載されている。その判断は大切にしないといけない。

◆鎌倉の世界遺産登録をめぐる経過

日本が世界遺産条約を批准した1992年、国内の暫定リストに記載された。政府は2012年1月、「武家の古都・鎌倉」(鎌倉、横浜、逗子市)を国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産センターに推薦。国際記念物遺跡会議(イコモス)はことし4月、武家文化の物証不足を主因に世界遺産に登録しないようユネスコに勧告した。政府は6月に推薦を取り下げたが、コンセプト修正後の将来的な再推薦を目指している。92年組の文化遺産候補10件のうち、鎌倉と彦根城(滋賀県)のみが登録されていない。

【神奈川新聞】

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