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「オヅって誰?」 生誕110年、没後50年、世界一の「東京物語」/神奈川

社会 | 神奈川新聞 | 2013年12月4日(水) 12:03

演出する小津安二郎監督。小道具の位置1センチにもこだわった(写真提供・松竹)
演出する小津安二郎監督。小道具の位置1センチにもこだわった(写真提供・松竹)

-映画の話題になると、「オヅ」って名前をよく聞くよね。昔の映画監督で、世界的に有名なんだってさ。はまってる人には「オヅは深い」「見るたびに発見がある」らしいけど、中身はチョー退屈らしいじゃん。オヅって誰よ? 何がそんなにすごいの? -という読者のために「小津安二郎入門」をお届けする。12日は小津監督の誕生日で命日。名匠は1963年、還暦を迎えた日に亡くなった。ことしは生誕110年、没後50年。墓は北鎌倉・円覚寺にある。

■□■どんな人

小津安二郎は1903年12月12日、東京・深川に生まれた。実家の転居に伴い三重県立宇治山田中学卒業。代用教員になったが、映画への夢断ち難く、23年、松竹キネマ蒲田撮影所の撮影部助手に雇われる。27年、時代劇「懺悔(ざんげ)の刃」で監督デビュー。35年の監督生活で54作品を残した。戦前の代表作に「生れてはみたけれど」「出来ごころ」「浮草物語」。応召-復員後は、大船撮影所(鎌倉市大船)を拠点に小津芸術の頂点とされる「晩春」「麦秋」「東京物語」の3部作などを発表した。

主たる作品の脚本は野田高梧との共作で、老舗の茅ケ崎館(茅ケ崎市中海岸)を定宿にして執筆した。徹底して画面の構図にこだわり、小道具をはじめ一点一画に独自の調和と美を求めた。

■□■何がすごい

創刊以来94年の歴史を持つ映画専門誌「キネマ旬報」。同誌による恒例のベストテン選考が、数ある同種イベントのなかで最も権威があるとされる。

そこで小津作品は「生れてはみたけれど」(32年、1位)、「出来ごころ」(33年、1位)、「浮草物語」(34年、1位)、「晩春」(49年、1位)、「麦秋」(51年、1位)、「東京物語」(53年、2位)、「彼岸花」(58年、3位)-にランクされた。

なかでも世界的に評価が高まっているのが「東京物語」。英国映画協会の機関誌「サイト&サウンド」は、10年ごとに世界映画史上のベストテンを発表している。昨年は著名映画監督358人の投票で「東京物語」が1位に選ばれた。

■□■何を描いた

全作品をひとくくりにはできないが、ここでは世評高い3部作から、小津ワールドをのぞいてみる。

波瀾(はらん)万丈の展開やアクション、ラブシーンとは全く無縁。ヒロインはいずれも原節子さん演じる「紀子」で“紀子3部作”とも呼ばれる。鎌倉が舞台の「晩春」は紀子の結婚と父(笠智衆さん)との別離、「麦秋」「東京物語」では最後に家族全員が別れ別れになる。会者定離、「家」の崩壊、無常。小津の墓石に彫られた「無」一文字は、小津芸術の神髄を表している。

彼の語録に「永遠に通じるものは常に新しい」がある。時代の流れを超越した家族の肖像と、独特な映像美に、時を超えて世界の共感が広まっている。

■□■特徴は

まず、厳格なスタイルがある。視点は畳に座った人物を仰ぎ見るローアングル。カメラはフィックス(固定)で、上下や左右に振ることや、移動撮影を好まなかった。

当初は華麗な技を駆使した。後にそれを捨て、極限までシンプルな世界を確立する。動くことが最大の魅力である映像という表現手段において、逆に動きを抑えることで独自の境地に達した。

せりふ、演技、映像、あらゆる表現で「説明」「過剰」を嫌った。人物の感情のひだを、時には観客が気づかないほどさりげなくにじませる。小津は口癖のように「分からせようとするな」と言った。

冗舌を排した小津流は、テレビドラマでいえば「渡る世間は鬼ばかり」の対極に立つ。作家の田口ランディさんは本紙エッセーで「ほんとうに心地よく美しいと思う所作や言葉は、現代ドラマではなく、小津安二郎の映画の中にあることを再認識した」と書いた。

■□■1人芸術

脚本、演技、撮影、照明、セット、小道具、録音、衣装、音楽-。映画は総合芸術だといわれる。

小津は全てを自分の色に染め上げた。例えば、飲み屋の看板の文字。小道具や美術担当が描くが、御大は気に入らず、結局、自ら筆を執る。小津映画の主軸、笠さんは言ったものだ。「小津先生の映画に限っては“1人芸術”です」

■□■神奈川との縁

小津監督は1952年、母を伴って鎌倉市山ノ内に転居した。以来、志賀直哉、里見とん、大仏次郎、永井龍男らそうそうたる鎌倉文士と交流し、特に里見とは深い親交を結んだ。小津初のカラー作品「彼岸花」と「秋日和」は里見の原作に基づいている。

◇初めは居眠り

初めて小津映画と向き合ったのは学生時代。今はなき東京・銀座の並木座で「秋刀魚の味」を見た。

居眠りをした。単調で社会性がない。無気力なインテリの小市民たちが娘の結婚話に終始する展開は、退屈でしかなかった。笠智衆さんの演技も、うまいんだか、下手なんだか…。

およそ10年後、並木座で「麦秋」と対面。有名な原さんと杉村春子さん、二本柳寛さんの掛け合いに、思わず笑っている自分がいた。

それから、また10年ほど、今度は「東京物語」。母親の形見分けのシーンでのやりとりに「ああ、いるよな、こういう親類が」とうなずく自分がいた。

記者は「小津映画10年説」を唱えている。40代、50代、60代と年齢を重ねるにつれて、その味わいに少しずつ気づくようになる。

例えば、ヒロイン・紀子のちょっとした返答に込められた真情、親や子のエゴ、さりげない戦争の傷痕、権力者に対する嫌悪、老いの孤独。今、紀子3部作などを見直すと、胸がつぶれる思いがする。せりふや表情が分かる、よーく分かる。

小津は、さまざまな意味を画面の裏に隠した。だから、見るたびに発見がある。今にして知った。小津と盟友・野田高梧が練り上げたせりふには、寸分の隙もない。

■ 今後の関連イベント ■

◇「小津作品全作特集上映」

2014年1月13日まで、東京・神保町シアター。松竹と東京国立近代美術館フィルムセンターの共同事業でデジタルリマスターされたカラー4作品を含む、現存する37作品を順次上映中。問い合わせは神保町シアター電話03(5281)5132。

◇「収蔵品展 生誕110年 小津安二郎」

12月7日~2014年4月20日、鎌倉文学館。小津日記をはじめ、愛用品や北鎌倉の自宅にあった遺品を展示。鎌倉文学館電話0467(23)3911。

◇「小津安二郎の図像学」

12月12日~2014年3月30日、東京国立近代美術館フィルムセンター。絵画、デザイン、文字、色彩などの図像から独自の美的感性を浮き彫りに。「秋刀魚の味」の看板も再現。フィルムセンター電話03(5777)8600=ハローダイヤル。

◇「永遠の伝説~映画女優 原節子」

2014年1月26日まで、鎌倉市川喜多映画記念館。プライベート写真や「麦秋」「東京物語」などのポスター、インタビュー記事などを展示。川喜多映画記念館電話0467(23)2500。

【神奈川新聞】


ローアングルで撮影された「東京物語」の一場面。左から東山千栄子さん、原節子さん、笠智衆さん(写真提供・松竹)
ローアングルで撮影された「東京物語」の一場面。左から東山千栄子さん、原節子さん、笠智衆さん(写真提供・松竹)

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