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【記者の視点】相乗り選挙、誰のための「戦略」か=報道部デスク・佐藤英仁

社会 | 神奈川新聞 | 2013年9月11日(水) 00:00

29・05%という過去最低の投票率に終わった横浜市長選。参院選直後、お盆という時期が重なったとはいえ、関心は高まらず、有権者の7割、実に200万人以上が投票を棄権した。なぜ選挙戦は盛り上がらなかったのか。私は、国政で対立している与野党が一人の候補者を担ぐ「相乗り」が低投票率に拍車を掛けたとみている。

8月25日に行われた横浜市長選は、自民、公明、民主の3党が推薦した現職の林文子氏と、共産党推薦の新人による事実上の一騎打ちとなった。結果は、林氏が得票率約82%の圧勝で再選を果たした。

大阪や名古屋の市長のような、地域政党の代表で人気の高い現職に挑むわけではない。ではなぜ、最も強いと言われる2期目を目指す現職が、市会の7割超を占める主要3会派と手を組んだのか。

地方選挙に詳しい東北大大学院准教授の河村和徳氏(42)=政治意識論=の説明によれば、相乗りの構造は次のようになる。

日本の地方自治体は、首長と地方議員が異なる選挙で選ばれる二元代表制を採っており、首長は当選後、議会対策が必要になる。一方、主要会派も自分たちの政策をできるだけ反映させたいと考える。

両者の利害が一致して行われる選挙連合、それが相乗りだ。

■有権者不在

そこでは、無党派を含めた幅広い層からの支持を集める戦略を取る必要がなくなる。事前に相乗りの構図を形成することで、他党は対抗馬を立てづらくなり、候補者が少なくなれば組織票を固めることで勝ちが見込めるからだ。

候補者は、できるだけ多くの政党から支援を受けることで当選の確率が上がる。支える側の政党にとっても選挙での労力を抑えられる。双方にとって効率的な仕組みといえる。

しかし、最も重要な視点が抜け落ちている。有権者の存在だ。

4年に1度しかない首長選は、住民が自治体の課題や今後のまちづくりについて考える重要な機会である。有権者は、さまざまな考えを持った候補者たちの議論に耳を傾け、一票を投じる。相乗りはそうした大切な機会を奪っている。

相乗りと投票率低下が相関関係にあることは、研究者によって明らかにされている。自らの一票によって選挙戦を左右する「影響確率」が、グッと下がるためだ。

候補者が少なければ投票したい人がいない可能性は高まる。また、相乗りをすれば、支持している政党が支持していない政党と勝手に手を組んだとも映る。それは、希望していない政策が進められる可能性を想起させる。相乗りは、有権者が投票をためらい、棄権へとつながる原因をいくつも内包しているのだ。

■高いリスク

もちろん、国政で連立を組む自公両党が、全国最大の都市を押さえたいと考えるのは当然である。候補者が、特区事業や港湾整備といった国家レベルの施策を進める上で政権とパイプを持ちたいのも理解できる。しかし、横浜市長選をはじめ、国政で野党の立場にいる民主党が加わる理由は判然としない。

与野党が手を組むことは政党、特に野党にとってリスクをはらむ。社会党は1995年、自民党などと連立政権を組んだことで大幅に支持者を失い、党勢は著しく後退した。民主党も同じ道を歩んでいないか。2012年の総選挙、13年の参院選で惨敗し、「解党的出直し」の必要性を強調していたはずだ。安倍政権と対決姿勢を示している今、地方選挙で自公と手を組んでいる場合だろうか。

■一票投じて

選挙で3党の支援を受けた林氏が、2期目をスタートさせた。今度は、3党と選挙前に結んだ政策協定を実行していく番を迎える。

子育て支援策や経済活性化といった面では各党と協調できるだろう。しかし、外国人参政権の賛否や教科書採択などの施策、3党の間で意見が異なる政策が出てきた場合、どう調整していくのか。過剰とも言える相乗りは、各党との調整でかえって市政を停滞させる可能性がある。

林氏の重要な仕事は、今後の4年間、3党のためではなく市民のために施策を展開することだ。7割以上の有権者が棄権したことを忘れてはならない。

一方の議会は、地域の課題を市政に反映させるとともに、予算と人事という強大な権限を持つ首長をチェックすることが仕事である。自公民3党は、緊張感を持って議会に臨むことが必要だ。なれ合いもまた、市民のためにはならない。

10月以降、川崎、鎌倉市をはじめ首長選が続く。そこで有権者にもひと言。どんな構図であっても、投票を棄権しないでほしい。

投票率が下がれば、組織力を持つ候補者を利する。相乗り候補を支持するのであれば一票を投じ、入れたい候補者がいなければ白票を投じて意思を示そう。政治への関心度が表れる投票率は重要だ。高い関心は、首長にも議会にも緊張感をもたらすのだから。

◇識者の見方

東北大大学院准教授・河村和徳氏

有権者には不幸だ

地方選挙で相乗りが形成されるようになったのは、1970年代のオイルショック以降。税収が頭打ちとなり、「地域の発展のために」というスローガンのもと、地域の対立を棚上げして保守と革新が手を結んだ。

相乗りは、混乱を回避し、安定した行財政改革を進められるメリットがある。しかし、与野党による事前調整が常態化し、投票率の低下を招く。議会は総与党化していき、議論は深まらず、セレモニー化する。自治体が抱えている課題が表に出てきにくくなる。有権者には不幸なことだ。

横浜のような大都市は課題が多いが、大きい分だけ声が届きにくい。だからこそ4年に1度の首長選は、今後のまちづくりを考える重要な機会になる。候補者にとっても市民のニーズを把握するチャンスになるが、相乗りはそうした機会を失う。市民の考えと施策が乖離(かいり)すれば、政治への関心も薄れていくだろう。

与野党の協力体制は、地方議会での活発な議論を後退させ、民主主義を危うくしかねない。首長選では、主要な政党から複数の候補者が出て、議論を戦わせるのが理想的だ。政党のあり方も問われている。

【神奈川新聞】

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