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~関東大震災90年~ 語り継ぐ(5)
未曽有に学ぶ〈5〉守る(下)◆石に刻んだ命の教訓

社会 | 神奈川新聞 | 2013年9月5日(木) 00:11

県西部を中心に石碑をたどった本多さん。温泉地学研究所の1階で成果をパネル展示している=小田原市
県西部を中心に石碑をたどった本多さん。温泉地学研究所の1階で成果をパネル展示している=小田原市

 〈妻及二児ノ棟下ニ圧セラレタルヲ知リ、一層奮激救出ニ努力セリサレド、憾(うら)ムラクハ徒手空拳ニシテ術ノ施スベキナシ〉

 JR南武線矢向駅から徒歩7分、川崎市幸区の静翁寺。県立歴史博物館学芸部長寺嵜弘康(56)は1600字に及ぶ碑文を読み込みながら、涙をこらえていた。2003年、関東大震災80年の企画展の開催準備をしていたときだった。

 刻まれているのは、尾上町(横浜市中区)の家を出た直後に被災した男性の悔恨の念だ。碑文は続く。

 〈大声救ヲ求ムレド、此隣モ亦(また)皆同ジ運命ニ陥リ、一人トシテ来リ助クル者ナシ。加フルニ猛火焔々トシテ四方ニ起リ、熱風面ヲ掠メテ衣髪為ニ焦ントス。逃レテ身ヲ全ウセンカ、棟下ノ妻児ヲ如何セン。停リテ救助ニ従ハンカ、唯徒ラニ焼死センノミ。策尽キ望絶エ進退谷(きわ)マリテ痛恨限リナシ〉

 「地震が起きてからの経緯をあれほど克明に刻んだ石碑はめったにない。教訓を後世に伝えたいという意志の表れではないか」。郷土史家に教えられて碑の存在を知り、胸を打たれた寺嵜。80年企画展の図録に写真を載せようとしたが印刷に間に合わず、パネル展示に急きょ加えてその存在を知らしめた。

 企画展の図録では、県内各地に残る石碑約90基の一覧と写真を9ページにわたって載せた。

 寺嵜が下敷きにしたのは、県温泉地学研究所の元所長、平野富雄(75)のコラム「ボクのいしぶみ巡り」。地震観測に興味を持つ人たちのグループ「なまずの会」の会報や温地研の観測だよりに1977年から連載し、73基を取り上げていた。

 温地研のある県西部を中心に、休日を使って横浜や鎌倉も訪ね、石碑が示す教訓に関心を寄せ続けた。震災を機に耕地整理が行われたことを刻む地元大井町の石碑を「地震で生まれ変わった美田」とつづった初回のコラムで、平野は自身の問題意識を記している。

 「いつの頃からか私は地震に関する石碑に興味をもち、各地に眠っているこれらの石碑をもう一度見つめ直してみようと思いました」

 原点にあるのは祖母の被災体験。「幼いころ夏になると、関東大震災で家がつぶれ、再建するのに苦労したとよく聞かされた」。年を経て思いは強まる。「震災の教訓を刻んだ碑は身近なところにたくさんある。その価値や重みに光を当て、子どもたちにしっかりと伝えていくべきだ」

 平野の熱意は後輩に受け継がれている。温地研主任研究員の本多亮(40)。昨年6月から、平野が訪ねた石碑をたどり、当時のコラムと自身の感想やエピソードを写真とともにホームページで公開している。

 「平野さんが訪ねてから30年以上が過ぎた場所もある。今どうなっているか気になったし、誰にでも碑の存在が分かるようにしたかった」

 コンピューターを使った地震波の解析を得意とする本多。実際に足を運んでみると、苦労は少なくなかった。南足柄市の震災復興碑は雑草に隠れていたため、車で何度も通り過ぎてしまった。丹沢山中にあり、付近に集落のない地蔵平にはまだたどり着けていない。

 それでも周囲の草がむしられ、手入れが行き届いている碑があり、年配の人が碑文に目を凝らしている場面にも遭遇する。「忘れることなく、大切にしている人がいる」と肌で感じた本多は「地元の研究機関として、語り継ぐ役割も果たしていきたい」と語る。

 その思いは、市民グループ「三浦半島活断層調査会」顧問の蟹江康光(72)にも通じる。本多同様、昨年から調査を始めたのは「大阪で地元住民が大切にしている碑に出会った」からだ。

 関東大震災の約70年前、1854年に起きた安政南海地震の苦難を今に伝える「大地震両川口津浪記」。大阪湾を襲った津波による被害と過去の教訓は時とともに忘れられてしまう、との警鐘を刻んだ碑文は、地元町会などにより解説冊子も作られている。

 蟹江は思う。「碑は文化財。いつまでも大切に守り続けていけるよう、自治体にも働き掛けていきたい」 =敬称略


三浦半島で碑に着目し関東大震災の教訓を伝えている蟹江さん(右)=逗子市小坪
三浦半島で碑に着目し関東大震災の教訓を伝えている蟹江さん(右)=逗子市小坪

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