死者・行方不明者が230人を超え「平成最悪」となった西日本豪雨を受け、気象庁が防災気象情報の改善に動きだした。事前の記者会見で大雨特別警報の可能性に言及するなど注意喚起を強め、市町村の避難勧告なども迅速だったとされるが、住民の避難行動に必ずしも結び付かなかったためだ。有識者を交えた検討会(座長・田中淳東大総合防災情報研究センター長)で「伝え方」に関する議論を今月から開始。情報を活用する立場の自治体から指摘された課題を共有し、避難の促進へ一歩を踏み出した。
「情報があり過ぎて、対応が難しい」「全ての情報を活用するのは困難」
西日本豪雨で人的被害や一定の影響があった約500市町村に対し、気象庁が行ったアンケート。13日の検討会初会合で報告された回答からは、豪雨や台風時にウェブサイトやメールなどで次々と提供される防災気象情報に対する受け手側の戸惑いがにじんだ。
大雨に関する警報・特別警報に土砂災害警戒情報、記録的短時間大雨情報や指定河川洪水予報、そして昨年7月からサイト上で公開が始まった土砂災害・浸水害・洪水の危険度分布。多様な上に各情報の意味や違いが分かりにくいため、専門家からも「多くの住民が理解、消化できていない」との指摘が出ている。
さらに「土砂災害警戒情報が発表されても土砂災害が発生しないことが多い」などと情報の精度不足を問う声もある。打開策として始まった危険度分布についても「確認する余裕がなかった」「各種対応に忙殺される中で十分に見ることができなかった」などと、チェックが必要な状況ほど活用されていない実態が浮かび上がった。
情報体系が複雑な上に必ずしも精度が十分でなく、一覧性にも乏しい-。気象庁は防災気象情報の課題をこう整理した上で、改善の方向性を示した。
情報の複雑さに関しては、発表した警報や情報が避難に直結するよう、シンプルなキーワードや色によるレベル分けを活用し、住民らの理解を促進。精度や使い勝手の改善策では、土砂災害の危険度分布の表示単位を細かくするとともに、市町村など希望者に危険度情報を通知するサービスの実施を目指す。
また、災害の切迫度を的確に伝えるため、記者会見時の言葉遣いや防災気象情報の説明の中で用いる表現などを工夫することも論点に挙げた。
大雨特別警報についても改善を図る構えだ。
数十年に1度の雨が予想された場合に重大な災害に対して最大級の警戒を呼び掛けるのが目的だが、その意味が「住民に十分理解されていない」(静岡大防災総合センターの牛山素行教授)ことが豪雨後の調査で明らかになったからだ。呼び掛けの際の表現を「避難勧告や避難指示(緊急)に相当する気象状況をはるかに超える」などに見直す方向で検討する。
2013年8月に運用が始まった大雨特別警報は、関東・東北豪雨(15年)や九州北部豪雨(17年)などこれまでに7事例で発表され、西日本豪雨では最多の11府県が対象となった。その一方、土砂災害で多くの犠牲者が出た13年の伊豆大島や14年の広島市などに対しては、記録的な豪雨の範囲が限定的だったため発表されず、気象庁の対応が疑問視されていた。
こうした課題も踏まえ、同庁予報部は「中長期的な課題として、大雨特別警報の発表基準や指標の見直しも検討する」としている。