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純国産の技術結集
日本丸保存へ・近代遺産を考える〈上〉

社会 | 神奈川新聞 | 2016年11月7日(月) 09:25

近代遺産として評価されている帆船日本丸=横浜・みなとみらい21(MM21)地区
近代遺産として評価されている帆船日本丸=横浜・みなとみらい21(MM21)地区

 1930年に練習帆船として進水し、横浜・みなとみらい21(MM21)地区で保存、公開されている帆船日本丸。歴史的、文化的価値を再認識するため、文化財研究、船体構造、造船史などの専門家によるシンポジウムが10月に開かれた。船体の老朽化が進む中、近代遺産としてさらなる長期保存を考える上での現状と課題を、参加者の発言から探る。

 【中山俊介・東京文化財研究所文化遺産国際協力センター長】金閣寺(京都市)などの寺社仏閣だと、(市民感覚では)文化財や文化遺産だと捉えやすいが、近代遺産はなかなか難しい。富岡製糸場(群馬県)は世界遺産になったが、何も知らない人から見ればただの工場。文化財だと認識されないと、守ろうということにならない。

 日本丸や、既に重要文化財になった氷川丸は国民の認知度が高い。ここがうまくいくと、他の近代遺産の議論にもつながると期待している。

 

原  型


 【船体構造に詳しい横浜国立大の角洋一名誉教授】産業革命以後、19世紀に登場した蒸気船は最初は鉄で造られ、その後、鋼になった。日本丸ができたころは鋼で造られるようになって半世紀がたった時期。当時は溶接技術が発達しておらず、リベットを使った。技術史的には当時の典型的なものを残している。

 特に外板は70%ほどが建造当時のものが生きている。現在、一般的に使われている鋼材に比べて腐食速度が遅いように感じており、長持ちさせられそうだ。

 【中山センター長】船の科学館(東京都品川区)前に展示されている初代南極観測船の宗谷に比べると腐食速度が異様に遅い印象がある。日本丸は船体の板厚がもっと厚かったのではないか。図面上は13ミリとあった部分も、竣工(しゅんこう)した時は15ミリぐらいを使っていたかもしれない。

 【角名誉教授】今なら超音波で板厚を測るが、100年近く前は重量で測っていたと思う。重量をその板の面積で割ると、平均的な板厚が出る。その程度の管理だろうから、オーバースペック(過剰性能)になっていただろうが、それにしても腐食速度がかなり遅いことは間違いない。

 呉海軍工廠((こうしょう)広島県)のクレーンがなかなか腐食しない例もあり、何十年か前の素材は、今のに比べて腐食に対して違う性質を持っているのかなと思っている。

 

リベット


 【中山センター長】リベットを外して打ち直すことができる造船所は日本にはない。溶接技術が発達して、ほぼすべての造船所は溶接で船を造っているのでリベットの技術者がおらず、リベットを打てる工具もない。そんな中、どうやって修繕するのかは非常に重要な課題になっている。

 一般的に橋梁(きょうりょう)はリベット構造がたくさん残っているので、日本丸への応用の可能性はあるかもしれない。蒸気機関車のボイラーを直す会社もある。それを船にどう適用するのかが問題だ。

 【角名誉教授】外板にリベットが一面に打たれているところに溶接のつるっとしたのが見えると、違和感を覚える人がいる。そのあたりを文化財価値としてどう判断するか。

 欧州の駅舎は昔はリベットだった。新しく直した部分は実は、裏でボルトで締めているという構造。日本丸の補修の際にも選択肢に入るかもしれない。


 

エンジン


 【エンジンに詳しい海技教育機構の須藤信行教授】日本丸が建造された昭和初期は、蒸気エンジンからディーゼルエンジンに一気に転換した時代。日本丸と同じ年に竣工した氷川丸もディーゼルエンジンだが、氷川丸の場合は海外から技術を導入した。対して日本丸は図面から造った純国産といえる。いろんな試行錯誤があったろうし、残されていることは非常に価値がある。

 ディーゼルエンジンの圧力に耐える材料を探すのに苦心したため、不良品が多く、部品を造って水圧テストをしたが、すぐに壊れてしまった。その中から生き残った部品を組み合わせて造ったという苦労話も残っている。

 この時代の船の多くは戦争で沈められた。単に古いだけでなくて、今につながる当時のエンジン技術が残る意味は大きい。

 船の機械システム面を考えると、蒸気船時代の名残があり、蒸気で動く機械をいっぱい持っていた。いかりを巻き上げたり、舵(かじ)を取ったり、ポンプを動かして水や油を送ったり。蒸気船からディーゼル船に移り変わる過渡期の部分もある。こういうのも非常に面白い。時代の変わり目という意味では、末永く残す価値があると考える。

 

再稼働


 【須藤教授】メインエンジンは今の状態では動かないだろう。引退後の約30年間、まったく使われていない。大きなエンジンはターニングといって、たっぷりと油を入れてモーターでゆっくりと回して稼働部分に油をなじませるメンテナンスが必要で、長い停泊中は10日に1回は必ずしなければいけないが、この32年間していない。この状態で突然エンジンをかけようとしても、さびついている箇所があちこちにあるかもしれない。

 エンジンは(清水でなく)海水による冷却で、海水や排ガスが通っていた配管に腐食があるかもしれない。重油を燃やすと硫黄分があるので、それが(配管内で)硫酸化する。今の状態でエンジンをかけるのは無理だと思う。オーバーホール(分解点検修理)をして状態の悪いところの部品を交換する必要がある。

 

帆船日本丸 日本人船員の養成のため、神戸の川崎造船所で進水した大型練習帆船。その美しい姿から「太平洋の白鳥」と呼ばれた。戦時中は帆装を外して物資輸送、戦後は引き揚げや遺骨収集に携わった。1952年に再び航海訓練に従事し、84年に引退するまでに1万1500人の訓練生を育てた。横浜市が同年に誘致し、85年から横浜・みなとみらい21(MM21)地区で展示、公開されている。


 
 
 

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