他にはない神奈川のニュースを!神奈川新聞 カナロコ

  1. ホーム
  2. ニュース
  3. 社会
  4. 【減災新聞】「防災計画」主役は住民 津波避難や後方支援も 新制度の普及徐々に 

【減災新聞】「防災計画」主役は住民 津波避難や後方支援も 新制度の普及徐々に 

社会 | 神奈川新聞 | 2018年11月11日(日) 11:10

「津波防災の日」のイベントで、地域ごとの特徴や課題を考慮した計画作りの現状を発表する住民ら=5日、川崎市川崎区
「津波防災の日」のイベントで、地域ごとの特徴や課題を考慮した計画作りの現状を発表する住民ら=5日、川崎市川崎区

 住民らが主役となる「地区防災計画」=自助のヒント参照=という災害対策の新たな仕組みがある。「公助の限界」が浮き彫りになった東日本大震災を教訓に、地域コミュニティーの特性に応じた自助や共助の方針を住民や事業者が立て、日々の備えや避難行動などを通じて、被害の軽減につなげる試みだ。県内でも策定の動きが徐々に広がり、川崎市臨海部の事業所や南足柄市内の自治会などが津波対策の計画やビジョン作りを進めている。

受け入れ


 「災害は点でなく面で起きる。私たちは津波の直撃は受けないが、被災地をバックアップする地域」。川崎市川崎区で5日に開かれた「津波防災の日」の啓発イベント。南足柄市岩原自治会の高橋鈴子会長が、近隣の沼田自治会(深瀬和明会長)とともに地区防災計画作りに取り組む意義を強調した。

 同市は内陸に位置し、津波の浸水被害は想定されていない。しかし、市域の南側にある両地区は、相模湾に面する小田原市に隣接。津波で被災した住民を支援したり、受け入れたりするという新たな共助の枠組みを整えようとしている。

 取り組みの念頭には、東日本大震災の際、沿岸部に対する後方支援の拠点となった岩手県遠野市の役割がある。神奈川県が同市内にボランティア拠点「かながわ金太郎ハウス」を整備した縁もあり、住民レベルでも自治体の枠を超えた「広域連携」を担う意欲的な試みだ。

 とはいえ、課題も少なくない。「自治会に加入しない人が増え、誰がどこに住んでいるのか把握できないこともある。住民の間にはこのまちは大丈夫という思い込みもあり、全体として防災への問題意識が低い」と高橋会長。防災ゲームや図上訓練を重ねて支え合うことの大切さを確かめつつ、本年度末を目標に計画作りを進めている。

 川崎市川崎区では、最大級の津波で深さ1~2メートル前後の浸水が見込まれる臨海部の扇町と水江町で取り組まれている。

 いずれも工場地帯だが、JR鶴見線が走る扇町地区(広さ182ヘクタール、従業員数約3500人)の沿線には、住民が約60人居住。事業所と町内会による扇町地区防災協議会を中心に津波避難訓練などを行ってきたが、さらに連携を強めようと検討を重ねている。

 当面目指すのは、全体的な「扇町地区津波防災対策ビジョン」と、事業所を対象とした「津波防災対策チェックリスト」。市は「まずはビジョンを足掛かりに対策を進めていきたい」としている。

意識変化


 南足柄市岩原・沼田地区と川崎市臨海部は全国に8カ所ある内閣府の2018年度地区防災計画策定支援地区として、大学教授らの助言を受けながら進めているが、県内では既に計画を定めた地域もある。

 相模原市では、地区自治会連合会単位の22地区の全てで2年前に地区防災計画を策定済み。市の災害対応の基本となる地域防災計画には、800ページを超える「地区防災計画編」があり、各地区の内容が記述されている。

 「災害による犠牲者を出さない」を掲げる津久井地区は「わが家の防災診断」のチェックリストを載せ、地域の特性を考慮し大雪時の注意や対策も記載した。相武台地区では「自治会の役員も防災に関する意識にバラツキがある」と課題に言及。「そうぶだい防災の日」を定めて一斉訓練を行い、防災マップも作製して情報を共有することなどを解決策に挙げた。


地区防災計画について説明した内閣府のパンフレット。水害対策として取り組んだ地域も紹介されている
地区防災計画について説明した内閣府のパンフレット。水害対策として取り組んだ地域も紹介されている

 市の担当者は「(公的な性格のある)地区防災計画が定められていることで取り組みの方向性が見えやすく、住民の意識向上につながっている」という。

 このほか横須賀市でも、海辺のマンションが地区防災計画を定めている。

 内閣府によると、市町村の地域防災計画に反映された地区防災計画は今年4月時点で全国に約250。ほかに約3400地区で策定への取り組みが続いている。

 津波防災の日のイベントには、南足柄、川崎市の関係者のほかに、北海道斜里町ウトロ、静岡県伊豆市土肥、和歌山県田辺市文里(もり)、広島市宇品西、愛媛県松山市中島の住民や観光事業者らが津波避難対策の方向性について発表。観光と防災の両立や大学と連携した計画作りなどの現状を報告した。

 土肥地区の検討に関わっている加藤孝明・東大生産技術研究所准教授は「地域の人々が本音で話せる場があると連携が深まり、防災の取り組みが前に進む。制度は与えられるものではなく、自分たちで作り出すという意識で臨むべきだ」と提言した。

自助のヒント 地区防災計画
 東日本大震災を教訓に改正された災害対策基本法に盛り込まれ、2014年4月に創設された。国や自治体による公助の機能不全が露呈したため、自助や共助に確実に取り組んでもらう狙いがある。従来の自治会や地域の防災マニュアルなどと異なり、市町村の地域防災計画に反映される点が大きな特徴。地区の範囲に基準はなく、自治会やマンション管理組合、小学校区、商店街などが単位となりうる。内閣府防災情報のウェブサイト「みんなでつくる地区防災計画」でガイドラインや各地の事例を紹介している

 
 

防災に関するその他のニュース

社会に関するその他のニュース

PR
PR
PR

[[ item.field_textarea_subtitle ]][[item.title]]

アクセスランキング