日米両政府が、2004年に合意した米軍池子住宅地区(横浜市金沢区・逗子市)の横浜市域分(37ヘクタール)への住宅建設を取りやめる方針を固めたことが5日、分かった。米軍根岸住宅(横浜市中・南・磯子区、43ヘクタール)は返還を前提として「日米共同使用」に向けた協議を開始し、早ければ21年度の返還を目指す。神奈川新聞社の取材に、複数の関係者が明らかにした。
根岸住宅も返還前提の協議入りへ

池子住宅地区の住宅増設は根岸住宅地区の返還と合わせて合意されていたが、14年を経て他の米軍関連施設の整備を含む新たな方向性が示された。
池子住宅の逗子市域分(252ヘクタール)にはレクリエーション施設など生活支援施設を、在日米海軍横須賀補給センター燃料部の出先と位置付けられている鶴見貯油施設(横浜市鶴見区、18ヘクタール)には消防署を整備する。近く開かれる日米合同委員会で正式合意する見通し。

根岸住宅での日米共同使用は、返還に先だって日本側が住宅撤去などの作業に着手できるようにする。本来は返還後に行う作業を前倒しすることで、返還までの時期を短縮するとともに、跡地利用を促進するのが狙いとみられる。
根岸住宅の返還は、米海軍横須賀基地(横須賀市)の下士官宿舎建設や浦郷倉庫地区(同市)の桟橋整備などに着工後の21年度末以降となる見通し。実現すれば横浜市内の米軍施設返還は、15年6月の上瀬谷通信施設(瀬谷・旭区、242ヘクタール)以来。市は残る米軍施設の早期全面返還を引き続き国に求めていく。

池子住宅地区横浜市域での住宅増設を巡っては日米が03年7月、800戸程度で基本合意。04年10月の日米合同委員会では、700戸程度の増設と合わせて、根岸住宅地区などの返還で合意した。その後、増設戸数は段階的に縮小。11年には385戸、14年には171戸に見直されたが、着工されていなかった。
一方、根岸住宅地区には385戸の米軍住宅のほか、教会や銀行、郵便局などが点在していたが、15年12月時点ですべての米軍人ら居住者が退去。ほぼ無人となったものの、日本政府が民有地の借り上げ費として毎年約20億円を負担し続け、問題視されていた。
横須賀基地内の独身者向け下士官宿舎(4棟、約700室)や浦郷倉庫地区の桟橋整備は、防衛省が19年度予算の概算要求で計2億円超の調査費を計上している。
◆横浜市内の米軍施設 2004年の日米合同委員会では小柴貯油施設(金沢区)の一部、富岡倉庫地区(同)、深谷通信所(泉区)、上瀬谷通信施設、根岸住宅地区、池子住宅地区と海軍補助施設の飛び地(金沢区)について返還することで合意。05年に小柴の陸地全域、09年に富岡、14年に深谷、15年に上瀬谷が返還された。根岸住宅地区の返還が実現されれば、市内に残る米軍施設は池子住宅地区、鶴見貯油施設、横浜ノース・ドック(神奈川区)の3カ所となる。
横浜市は歓迎「大きな節目」 逗子市は慎重「国は対応を」

米軍根岸住宅地区(横浜市)の返還に向けた動きが表面化したことを受け、同市の林文子市長は6日の定例会見で「一日も早い返還を願ってきた。大きな節目になる」と述べ、早期実現に期待を寄せた。一方、米軍関係者向け新施設の整備方針が浮上した逗子市は「国にきちんとした対応を求める」と慎重姿勢を堅持。日米合意から14年ぶりに示される基地負担の新たな計画を巡り、関係自治体の動向が注目される。
関係者によると、日米両政府は近く開催する日米合同委員会で、根岸住宅について返還を前提に「日米共同使用」の協議を始め、返還の条件としてきた米軍池子住宅地区(横浜、逗子市)の横浜市域での建設は取りやめる方向で合意するとみられる。
池子住宅の逗子市域に生活支援施設を、横須賀基地(横須賀市)に独身者向け下士官宿舎をそれぞれ整備するなど、新たな施設計画も示される見通しという。
林市長は「国から正式に聞いていない。引き続き情報収集に努める」としながらも、「(報道が事実であれば)うれしい」と強調。2004年の返還合意後も進展がなかった十数年を振り返り、「地元の方々は本当に苦労したと思う。歴代市長や戦後長いこと苦労した皆さんへの思いが一段と深くなってきた」とも述べた。
一方、逗子市の平井竜一市長は「詳細が分からないため、現段階でコメントすることは難しい。国に対してきちんとした対応を求めていきたい」などとコメント、近く南関東防衛局から説明を受ける考えを示した。横須賀市幹部は「言う立場にはない」とした。会見で問われた黒岩祐治知事も「事実関係を把握していない。情報収集に努めるとともに、早期返還をしっかりと働き掛けていきたい」と述べるにとどめた。