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5日「津波防災の日」
【減災新聞】命と暮らし守るには 早めの行動で「死者ゼロ」

社会 | 神奈川新聞 | 2018年11月4日(日) 16:24

外階段が付けられ、屋上へ逃げ込めるようになった県営団地。東京湾にも津波のリスクはある=2017年7月、横浜市金沢区
外階段が付けられ、屋上へ逃げ込めるようになった県営団地。東京湾にも津波のリスクはある=2017年7月、横浜市金沢区

 押し寄せる津波からいち早く逃れ、命と暮らしを守るには-。東日本大震災が突き付けた課題をどう克服するかが、問われ続けている。発生が警戒される南海トラフ巨大地震では、神奈川を含む太平洋岸の広い範囲が大津波に襲われる恐れがあり、政府は事前の避難を含めた被害軽減策の検討を急いでいる。5日の「津波防災の日」を中心に、県内の沿岸各地で訓練が予定されており、家庭や地域の備えを見直す機会となる。

10分以内


 最悪の場合、32万3千人が死亡すると国が想定する南海トラフ地震。震源域は静岡から九州にかけての沖合となるが、伊豆半島の東にも津波は入り込む。

 国の予測では、震源域の東側で冬の深夜に地震が起きると、神奈川ではいずれも津波が原因で2900人が命を失う。最大で10メートルと予想された鎌倉市をはじめ、逗子市で9メートル、藤沢市と葉山町で7メートルと相模湾の東部で大津波に襲われるからだ。

 ただ、到達するまでにある程度の時間がある。試算によると、1メートルの津波が押し寄せるのは、地震発生の26分後と見込まれる真鶴町が県内では最短。そのほかの相模湾沿岸も30分程度後で、東京湾側の横浜、川崎市はおおむね1時間以上後と予想される。このため、海沿いの人々が10分以内に避難行動を起こせば、県内の死者はゼロに抑えられると考えられている。

 一方、県内の震度は6弱~5強が見込まれる。液状化や急傾斜地の崩壊などで全壊する建物は出るが、揺れによる直接的な死者は計上されていない。

 高台への避難が被害軽減の鍵となる相模湾沿いの13市町(三浦市~湯河原町)は、静岡や和歌山、高知県などの沿岸市町村ととともに「南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域」(14都県の139市町村)に指定されている。

事前避難


 この特別強化地域について、政府・中央防災会議の作業部会は10月、南海トラフ地震で発生する津波からの事前避難の検討対象とする案を示した。

 南海トラフで発生する可能性がある最大級はマグニチュード(M)9の「超巨大地震」。しかし、歴史上は、東西の異なる領域でM8級の「巨大地震」が数十時間や数年といった短い時間差で連動することが繰り返されてきた。

 このため、例えば西側で先行的な地震が起きた場合に東側で懸念される後発地震に備えるため、あらかじめ避難して人的被害を少しでも減らそうとの考え方だ。避難などの事前対策を講じる期間は、社会的な受忍限度を考慮して1週間程度を基本とする方針を作業部会は打ち出しており、静岡や高知のモデル地区を中心に対策が話し合われている。

 神奈川では具体的な検討はまだ進んでいないが、作業部会の主査を勤める名古屋大減災連携研究センター長の福和伸夫教授は「沿岸部が一律に避難する必要はないだろうが、地域の条件などを考慮して避難の必要性を判断してほしい」と呼び掛ける。一方で、こう指摘する。「相模トラフの巨大地震に対しては、それでは助からない」

目標半減


 小田原周辺から房総半島の沖合へと延びる相模トラフでは、1923年にM8級の関東大震災が発生。死者・行方不明者は10万5千人余りに上った。東京や横浜を中心とした大火に巻き込まれて犠牲になった人が大半を占める一方で、津波による死者も200~300人に達したとされる。

 当時の津波高は、逗子や鎌倉などで6~7メートル前後だったと考えられているが、目の前の相模湾が津波の波源となるため、到達までの時間が極めて短い。

 同じタイプを想定した県の試算によると、震源に近い小田原市国府津には地震の1分後に4・3メートルの津波が到達。三浦市から湯河原町にかけての沿岸でも、10分以内に5~8メートル程度の津波が押し寄せる所がほとんどだ。横浜や横須賀、平塚、厚木市など広い範囲で震度7が予想され、強い余震が続く困難な状況下で避難を強いられることになる。

 県が2016年にまとめた地震防災戦略では、この関東大震災タイプの再来で予想される死者3万1550人を半減以下の1万4180人とする目標を打ち出している。その中では、津波が原因の想定死者1万2530人を5030人に減らすことも掲げ、避難施設や避難路の整備、訓練やハザードマップを通じた意識啓発などを重点施策に位置付けた。

 今年の津波防災の日に合わせた訓練は3日の三浦、平塚市を皮切りに、鎌倉市と葉山町(5日)、逗子市(6日)、藤沢市(11日)で実施予定。海沿いを走る西湘バイパスの西湘パーキングエリア(小田原市)でも6日に訓練がある。

◆県内の津波避難施設
 今年3月現在の県の集計によると、マンションや公共施設などから指定する津波避難ビルは958カ所、高台の広場などから選ぶ避難地は129カ所。このほか、高台のない海沿いのエリアに県などが整備した津波避難タワーや避難スペースが7カ所ある。これらの避難施設は東日本大震災以降、急速に増えたが、ここ数年は頭打ちとなっている。三浦市や大磯町などの小規模自治体は避難に適した建物が海沿いに少ないのが課題で、都市部ではマンションなどの協力が得にくいといった事情がある。


相模湾沿いを走る西湘バイパス下り線の西湘パーキングエリア。津波の恐れがある場合は避難ステージか売店屋上へ逃げるよう呼び掛けている=2017年2月、小田原市国府津
相模湾沿いを走る西湘バイパス下り線の西湘パーキングエリア。津波の恐れがある場合は避難ステージか売店屋上へ逃げるよう呼び掛けている=2017年2月、小田原市国府津
 
 

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