【時代の正体取材班=田崎 基】「セクシュアル・マイノリティーと人権」をテーマにした講演が県内の自治体担当者ら向けに行われた。全体集会でマイクを握ったのは、LGBT支援法律家ネットワークのメンバーで子どもの人権にも詳しい山下敏雅弁護士。具体的な事案を紹介しながら、差別と偏見、無理解が生む社会の問題点を解説した。今月11日の講演を全3回で詳報する。
◇
【ケース1】日本人男性と韓国人男性のゲイカップル。二人は長く夫婦同然に暮らし、店を経営していた。日本人男性が余命数日となり、このまま亡くなったら韓国人男性は無一文になってしまう。財産が韓国人男性に渡るようなんとかしたいと連絡を受けた。
まず養子縁組届にサインしてもらいました。養子であれば遺産がいく。しかし、相手は外国人なので添付書類に一つでもミスがあると縁組ができなくなってしまう。そこで遺言も書いておくことにしました。
遺言状というものは全文自筆で書くことが原則です。そこでベッドに横たわる日本人男性に自筆で書いてもらうため私がひな型を作り、書き写してもらいました。一生懸命書くのですが、余命数日とあって震えていてうまく書けない。一文字でも間違っていると、その訂正のやり方も厳格に定められている。
時間をかけてやっとできあがったのは、全文ひらがなの小学生が書くような遺言状でした。
ところが養子縁組届と遺言状が完成した直後に、日本人男性の遠縁が病院に到着し、「不正な書類が作られている」と騒ぎになったのです。数時間かけてようやくその親戚も2人の関係を納得し、養子縁組届を提出することができました。
しかし本人が亡くなって数カ月後のことです。パートナーの在留期限が切れていることが判明し、親族が再び騒ぎ始めました。
「遺産を全部持って行くなら入国管理局に告発する」と。
結局パートナーはわずかな金額だけを受け取り、東京から離れていきました。
もしこのケースが男女のカップルであれば、婚姻届を提出し、日本人配偶者としてとても安定した在留資格を得られたはずです。仮に在留期限を過ぎていても、法律婚をして入管に届け出れば在留特別許可が得られるケースがほとんどです。財産についても夫婦であれば当然に法定相続人になれる。
しかし彼らは同性カップルであっただけでこんなことになってしまった。そうした不条理を目の当たりにしたのです。
居場所求め
【ケース2】当時18歳の少年は家庭や学校で問題を抱え、中学校を卒業する頃に非行に走り、そのころ自身の性的指向について男性が好きだと気付いた。新宿の街で逮捕され、2度目の少年院送致となった。
「また新しい弁護士ですか」「俺、もういいです。どうせまた少年院ですから」。少年はとても投げやりな態度でした。
少年が通い詰めた「新宿2丁目」という街は、世界でも有数の「ゲイタウン」で何百軒というゲイバーが集まっています。
ゲイ男性は家では「男らしくない」とか「早く孫の顔がみたい」と言われ、学校や職場でも友人や同僚は「ホモネタ」で笑い合っている。「付き合っている女性はいるのか」「結婚しているのか」「好きな女性のタイプは」と聞かれるたびに、うそをついてごまかし、やり過ごす。
「ひとりぼっち」なのです。
ところが新宿2丁目は違う。自分だけではない、一人ではないと実感できる。初めてここに居場所を見つける。お酒があり楽しい。場合によってはパートナーを見つけることもできる。多くのゲイの方が自分自身を取り戻すかのように集まる。
少年もそうでした。その2丁目という場所に通い続ける中で困窮した結果の非行でした。
少年は過去に1度、少年院送致となっているので、今回も送致されることはほぼ間違いない。しかも今回はゲイだとばれている。本人は「もう人生終わった」と思っていました。