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時代の正体
表現の自由考(上) 世界の常識では「検問」

社会 | 神奈川新聞 | 2020年6月4日(木) 09:24

美術・文化社会批評 アライ=ヒロユキさん

 開幕からわずか3日で中止になった国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」は、憲法の定める表現の自由と検閲禁止の形骸化を白日の下にさらした。台湾の現代美術館「台北当代芸術館・MOCA Taipei」では今月7日まで、表現の不自由展が開かれている。コロナ禍で社会の息苦しさが増す中、日本の表現の場は今後、どうなっていくのか。同展の実行委員で美術・文化社会批評のアライ=ヒロユキさんに、同展の意義や検閲問題について改めて聞いた。


アライ=ヒロユキさん
アライ=ヒロユキさん

 ─表現の不自由展を始めた経緯は。

 「きっかけは、2012年に都内の新宿ニコンサロンで開催予定だった写真家安世鴻(アンセホン)さんの日本軍『慰安婦』の写真展が、ニコンからの通告で中止になったことだった。損害賠償と謝罪広告を求める訴訟が行われる中で、支援者が検閲に大きな関心を持つようになった。『慰安婦』はもちろんのこと、天皇と戦争、植民地支配、靖国神社、国家批判、憲法9条、原発…。こうした題材が抗議を受ける、あるいはその可能性があるとして、作品が途中で撤去されることが続いていた。そうした現状への問題提起の意味もあり、排除された作品を集め、15年に『表現の不自由展~消されたものたち』を開催した。私は検閲に関する著述があったこともあり、誘われて参加した」

 ─そして19年、あいちトリエンナーレに招かれた。

 「15年の不自由展を見た津田大介芸術監督が『感銘を受けた』と、参加を求めてきた。トリエンナーレやビエンナーレのような『定期開催美術展』は通常の美術館の展覧会と異なり、芸術監督が内容の責任を負う期間限定のイベントで、一過性で祝祭性の強いサーカスのようなもの。だから私たちが招かれたのかなと思った」

 「冷戦後、世界の美術シーンでは政治的なテーマを扱う傾向になり、特にこの10年はトリエンナーレやアートフェアでその傾向が強まっている。例えばファシズムへの批判として、ナチス・ドイツ高官の写真を集めた作品や、『戦争の機械』と銘打って現職の政治家の写真を提示するような作品まで展示されてきた。海外では、過去だけでなく現在の問題をも表現する。ただ日本では、制約が強い。大丈夫かな、という不安はあった」

 ─中止に至るまでに何があったのか。

 「契約については、恣意(しい)的な中止を防ぐため、自然災害や違法行為以外の理由で中止を命じることができない条件を苦労の末、獲得した。だがいざ開催すると抗議が多く、津田芸術監督が19年8月2日夜、実行委員会会長の大村秀章・愛知県知事との協議の結果として中止を伝えてきた。それはできないと押し戻し、攻防を続けていたが、3日目の昼ごろにやりとりがぱたっと止まった。その夕方、記者会見で中止が発表された。実行委は会場から閉め出され、以後問い掛けても、しばらくは返事がなかった。契約にも反しており、だまし討ちのようなものだった」

 ─なぜそういった対応になったと思うか。

 
 

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