
繰り返し警戒が呼び掛けられた「記録的な高潮」が現実となった。
4日、徳島県南部に上陸した台風21号。大阪、神戸に、和歌山の御坊、白浜、串本と徳島の阿波由岐を加えた計6地点で過去最高の潮位を塗り替えた。
とりわけ、3・29メートルに達した大阪と、2・33メートルの神戸は、1961年の第2室戸台風で記録された最高潮位を半世紀ぶりに更新。大阪湾に浮かぶ関西空港は滑走路やターミナルビルの地下が浸水し、「海上空港」の脆(もろ)さを露呈した。
「そもそも構造的な対策で全ての高潮を防ぐことはできない。利用者や住民も含め、その共通理解が必要だ」。高潮などの沿岸防災に詳しい早稲田大理工学術院の柴山知也教授は、なお影響の続く今回の教訓も踏まえ指摘する。「これまで経験のない事態に対応するには、避難対策や早期復旧の手だても組み合わせなければならない。津波への備えと同じ考え方だ」
猛烈な風雨に連絡橋へのタンカーの衝突も重なった関空では、利用客ら約8千人が孤立。「想定外」の機能不全に陥ったが、柴山教授は言う。「関空には防潮堤があったのに、海水はそれを乗り越えた。台風の速度が速かったことで高潮が急発達し、運動量が大きくなったためだ」。そして、懸念を強める。「今回の台風が東京湾にとって最悪のコースを通っていたとしたら、同じような現象が起きたはずだ」
停滞懸念
県が検討を進める東京湾沿岸の最大級の高潮想定では、横浜、川崎、横須賀、三浦の4市で計70平方キロが浸水するとの結果が出た。湾奥部に位置する川崎市の影響が特に深刻で、川崎区の臨海部を中心とした広い範囲に浸水が及ぶ。
8月にその概要が公表されたばかりだが、有識者らによる検討会の会長を務める柴山教授は「最近は日本列島付近で挙動の読めない台風が多い」と、多様なパターンで計算してもカバーしきれない現状に言及。県の想定は国の手引に従い、伊勢湾台風級の73キロという移動時速で試算を行っているが、「台風の速度が遅く停滞したりすれば、より大きな影響が出ることも考えられる」との危惧も抱く。
今回の21号についても、「台風の中心気圧が低く、強風による吹き寄せの効果があった上、満潮に近い時間帯だった。不都合な条件がそろってはいたが、大潮ではなく台風が足早に去った点を考慮すれば、決して最悪のケースではない」
さまざまな条件がそろうことで卓越する高潮は、台風が接近、上陸するたびに必ず起きる現象ではない。それゆえ、「対策の蓄積が難しく、どのような事態に直面するかイメージしにくい」と、高潮ハザードマップの開発を進める横浜国大の筆保弘徳准教授は悩ましさを口にする。
県の想定に先行する形で国土交通省関東地方整備局の検討会が昨夏に公表した東京湾高潮の被害想定によると、東京(28万軒)、神奈川(25万軒)、千葉(45万軒)の1都2県で計98万軒が停電。都市ガスの供給や下水処理、通信にも支障が出るとした。
交通への影響も大きく、東海道線や横須賀線、根岸線などのJR27路線、京急線や相鉄線、東急東横線を含む私鉄14路線で線路や駅の水没が見込まれている。
さらに検討会の資料では、